2019.12.30費用対効果は必ず検証せよ(東京事務所開設)

 これまで福岡市を拠点にPRや観光客誘致、フェアなどの役目を果たしてきた福岡事務所が閉鎖となり、来年度から東京事務所が開設される。このことについて、市議会12月会議で各議員から発せられた意見は厳しいものだった。「福岡事務所で築き上げた人脈や成果はどうなるのか」「東京事務所開設による費用対効果は検証しているのか」など。

 市の回答に具体的な戦略は述べられず、「継続した営業活動で壱岐の認知度を上げる」「東京圏内の旅行会社など200件の営業をする」「東京圏内の情報発信効果に期待する」などの回答であった。また、担当課は「成果が上がるようにがんばっていく」とし、市長も「壱岐のために一歩踏み出す。効果を約束する」と述べている。答弁から見えるのは、戦略なき精神論のみだ。

 民間会社の例になるが、プロジェクトを提案する場合、精神論をいくら並べ立てても決裁は降りない。企画書や提案には、計画を成功に導くための明確な戦略や試算を明記せねば即却下になる。会社に不利益を出さないための当然の判断だ。しかし、本市の場合はそうではないらしい。戦略よりも精神論を優先するようだ。

 東京事務所開設後には年間1400万円の経費が必要となり、この中には2人分の人件費や活動費などは含まれていないという。内訳は事務所賃貸料や職員の交通費などになる。福岡事務所の場合、人件費を含み年間約3100万円の経費だった。東京という広大な市場と距離、また人脈形成や現地での広告宣伝費などを想定すれば、総計3000万円を大きく上回ることは容易に想像できる。各議員が指摘した「費用対効果はあるのか」は当然の疑問だ。

 今年3月、北海道の新聞社が本市と似た事例を記事にしている。内容を要約すると『北海道の様似町議会は、平成27年11月に町が東京都中央区に開設した北海道様似町東京事務所を、31年度末(令和2年3月末)で閉鎖することを決めた。同町東京事務所は、移住定住を促進する窓口機能と、首都圏や全国へ町情報を発信し、知名度を上げる拠点として開所。町出身者が所有する中央区京橋のビルに事務所を構え、町職員の所長が常駐していた。

 事務所開所から3年以上が経過する中、議会ではこれまでも東京事務所の存在意義などに疑問を呈する声があり、「数字的効果は見えない」と費用対効果を指摘。短期間での閉鎖方針が決まった』とある。

 また、鹿児島県鹿屋市についても、『東京事務所を平成6年に開設して13年間、首都圏の情報収集や企業誘致等の活動拠点としての役割を担ってきた。しかし、IT技術の進展などの社会情勢の大きな変化や、国、地方を通じた厳しい財政環境、これまで以上の行財政改革推進の必要性などから閉鎖した』とある。

 これらの事例からも、「何がなんでも東京だ」の昭和的な感覚はもはや通用しない。全国自治体の誘客などの熾烈な争いは、「勝つべくして勝つ」の綿密な戦略を持って挑まねば、予算(税金)の無駄使いになりかねない。「必ず効果をあげる」などの精神論で何ができるというのか。多額の税金の使途に無責任は許されない。

 戦略ありきの東京進出ならば異論はなくむしろ賛成するが、無策を根性で乗り切ろうとする姿勢は疑問でしかない。こんなことで大丈夫なのか、壱岐市の将来は。(大野英治)