2019.5.07離島民の苦悩を佐賀地裁で訴え「玄海原発運転差し止め訴訟」
本市住民が離島初の意見陳述。「放射能漏れの場合、生活の場を失う」
九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の稼働反対を訴える市民団体「原発をなくそう!九州玄海訴訟」の弁護団は19日、佐賀地方裁判所で原発運転差し止め請求のための口頭弁論を行った。この日、玄海原発周辺自治体では初の離島民として、本市から中山忠治さん(市防災士会)が出廷。原告席から被告側の九州電力と相手側弁護団に対し意見を陳述した。中山さんは「形ばかりの避難訓練は意味をなさない。玄海原発が放射能漏れなどの事故や災害に見舞われた場合、全島民が被曝せず無事に避難できると本当に思っているのか」と意見を突きつけた。
「原発をなくそう!九州玄海訴訟」のメンバーは、佐賀県や本県など九州各地の弁護士ら100人以上が所属する弁護士団と、玄海原発周辺自治体の住民1万人以上の原告で構成され、玄海原発運転差し止めを求めている。過去28回の口頭弁論では、約50人の周辺住民が再稼働や運転差し止めについて意見し、地域住民が受けると予想される稼働の影響を訴えてきた。
第29回目の口頭弁論は19日に佐賀地裁で開廷、周辺離島を代表する声として中山さんが法廷に立った。周辺離島住民初の意見陳述では、これまで法廷では語られなかった離島民の苦悩を声にし、原告と被告側の弁護団や裁判官は熱心に耳を傾けた。
市防災士会の立場から中山さんは、島内でこれまで繰り返し行われてきた避難訓練の不備を指摘。「玄海原発から30㌔圏内にある壱岐は、風向きによっては30分で全島が被曝する可能性がある。しかし現在の状況で全島民の避難には5日以上の時間がかかると推測されている」とし、現実とはかけ離れた訓練内容に対して異議を述べた。
また、仮に避難が完了した場合、その後はどこに向かい、どのように生活していけばいいのかを問うた。裁判官に「島が被曝した場合、私たちはいつ帰れるのか。汚染が収まるまで誰も帰島できないのではないか。福島原発の事故現場を見てきたが、未だ帰ることができない周辺住民がいるではないか」と意見し、「帰島できたとしても、観光や漁業農業も壊滅的な被害を被る。誰がこのような島へ観光に来てくれるのか。帰島後も島民の生活は成り立たない」と故郷喪失の危機を付け加えた。
意見陳述の最後に、被告側弁護団と裁判官に対し「子や孫に、かけがえのない故郷の島を残す。そのために脱原発に向かうべき。島民の切なる願いを聞き入れて、原発稼働を即刻停止してもらいたい」と訴えた。
玄海原発運転差し止め訴訟の裁判は今後、8月と11月に予定されている。本市や市議会は「稼働反対」で意見は一致している。離島や島の避難経路の問題点は、意見陳述を聞く限り解決していない。原発が稼働している現在、早急な対策と判断が急がれる。