2024.2.27「市いきっこ留学制度運営委員会」第3回会議で改善結果を公表
市教委、「改善はできた」と報告
市教育委員会(山口千樹教育長)は16日、石田農村環境改善センターで3回目の「市いきっこ留学制度運営委員会(長岡信一委員長)」を開催した。同制度改善事項についてのこれまでの検証や、同制度コーディネーターの活動報告などを聞き、11人の委員が意見を交わした。昨年3月に起きた、離島留学生の死亡事案を経て制度の改善策を講じたとする市教委は、ほぼすべての項目で「改善はできた」と制度の継続に前向きな報告をした。
同運営委員会開会にあたり山口教育長は「約1年前に起きた壱岐高生徒の冥福を改めてお祈りしたい。これまで県や市で行なってきた検証を踏まえ、この1年間でまとめた改善策を示し報告した。改善策が本当に妥当かどうか、今後も改善しながら運営していく」とあいさつした。
長岡委員長はこれまでの協議を含めて「専門家を含めた委員の貴重な意見で、非常に充実した運営委員会の機能を発揮できた。しかし、改善策の効果は数年先になるものと思う。現段階での取り組みを反省し、改善する手法があるならば改善を加えていく。その中で持続可能な制度が生まれてくると確信している」と述べた。
市教委は来年度以降、同制度の円滑な運営のために業務を整理する必要があることから、同運営委員会が一括して行ってきた業務を分割し、新たに「市いきっこ留学運営協議会」を発足することを報告した。同協議会は、これまで同運営委員会が行なってきた留学制度の広報及び啓発、留学生や里親の募集、各学校、里親との連絡調整などの業務に加え、留学制度の実施要項の設定や各地区関係団体の連絡調整、補助金の取扱い事務など制度の運営業務を担う。新たな発足のため、今後は各地区関係団体や機関代表、学識経験者などから委員の選任を行う。
同運営委員会は、留学制度に関する指導や助言、留学生と里親の決定、運営上の課題の検証など制度の審査機関としての業務となり、現委員のまま継続となる。
同制度の改善策の結果を報告
昨年4月から9月までに県が開いた3回の「これからの離島留学検討委員会」、その後、県の検証を受けて同年9月から市の同運営委員会を3回開き、制度の改善案を示した。同年10月からは来年度のいきっこ留学生の募集も開始した。
市教委は①留学生のSOSの迅速なキャッチ②留学生情報の事前共有③里親の負担感の軽減④留学生活の充実-の4項目の改善を実施した。
「留学生のSOSの迅速なキャッチ」の結果で市教委は、「2人の留学コーディネーターの定期的な面談及び里親宅の訪問により、留学生・里親・保護者と信頼関係の構築を図り、留学生のSOSを迅速にキャッチすることができた」と報告。特に顕著に現れた改善点では、昨年と比較し、今年度は留学生や里親、実親ともにコーディネーターによる面談や電話による状況把握が増し、留学生と里親とのスムーズな関係構築につながったとした。
面談では留学生向けアンケートも行い「留学生の心身の変化や里親または家族との関係性などについて把握することができた」「アンケート結果に不安のある留学生と面談を行うことで、不安解消・問題の早期解決につながった」などの改善結果を報告した。
「留学生情報の事前共有」では、事前見学や面談時に、留学生や里親を支援するために必要な内容や現状などの情報をまとめたアセスメントシートを作成。留学希望者の目的意識の高さや学校、家庭内での状況、留学するうえでの留意事項などの把握を行い、「関係職員全員で共有することができた」とした。同時に、臨床心理士や社会福祉士の資格を持った委員を登用し、「専門的知見に基づいて留学希望者を審査することができた」と報告した。
「里親の負担感の軽減」では、事前に里親へ留学生情報を提供し説明することで、「里親の不安軽減や受け入れ準備の促進に努めることができた」と評価した。
留学生の預かり人数の上限設定は、親と市教委で里親宅の状況を把握したうえで協議を行い、定期的なアンケート調査を踏まえて「里親宅の現状によって適宜決定する」と判断した。
事故や事件など突発的な状況を想定した緊急時対応マニュアルの作成や、里親の預かり上限よりも余裕を持たせた受け入れ人数にすることで、里親内で一時的な避難場所としても利用可能な枠を設定する緊急時避難場所も設定した。また、来年度より里親の名称を「しま親」に変更することで負担感を軽減するとした。
「留学生活の充実」では、留学生と里親同士の交流機会を作り、つながりを深める里親交流会を実施。「親の意見交流の良い機会となり、今後は里親が主体となって受講する形の研修を行いたいという案もあった」「交流会を通して地域や学年などの垣根を越えて仲良く会話する姿が見られた。今後も趣向を変えつつ定期的に交流会を実施していく」と報告した。
留学コーディネーターの活動意見
市教委が昨年から新たに留学コーディネーター2人を採用、就任から7か月が経つ長岡正記さん(66)、8か月経つ神山美奈さん(62)が活動報告をした。
長岡さんは「子どもたちが新たな環境で生活していくこと、里親との関係性も含めて人間関係を新たに築いていくことは非常に難しいと感じた」「保護者も子どももしっかりとした目的意識を持ってこちらに来ているのか、病気の特性はないのか、不登校などの事実はないのかなど受け入れにあたって可能な限り情報収集、そして分析アセスメントが重要」「せっかく留学しているのに目的も達することなく中途で終了する子もいる」など課題を挙げた。原因として「里親と留学生、実親の信頼関係が築けないことがある」と話した。
神山さんは「私たちコーディネーターの着任以降も、残念ながら途中で辞退される留学生がいた。最終的に留学辞退を決定するまでの間で、コーディネーターが関わることが少なく、留学生と実親で話が進んでしまったケースがあった。生活実態調査だけではわからない点を早急に察知するために、特に里親留学生には、より細かいフォローが必要だと思っている」と、現場の実情を話した。
受け入れ人数の上限は決まっているのか
委員の主な意見
-里親の預かり上限よりも余裕を持たせた受け入れ人数にするとあるが、各里親宅は最大何人の受け入れとなっているのか。
(市教委)里親宅7件へ調査した結果の最大の受け入れ人数は、留学生9人が1件、5人が4件、2人が2件。
-留学生1人1部屋の受け入れのほか、1部屋2人の人数も含むのか。1部屋に複数の留学生受け入れの問題があったと思うが。
(教育長)里親宅によっては1部屋に2人の場合もあり、中学生では1人1部屋にしている。里親に聞き取りをしたうえで、例えばAさん宅は「小学生なら4人です、中学生なら2人です」と里親宅の条件的になると認識している。
今年度は新規の留学生希望者が少なかったので、各里親宅は空いているところがあり、0人という里親のところもある。
-では里親宅に入る留学生は、各自1人1部屋ずつ与えてもらえるということで、理解していいか。
(教育長)例えば、兄弟で来て同じ部屋にしてほしいという要望もあり、小学1、2年生で1人は怖いから2人部屋が良い場合などは、2人1部屋でも構わないと思う。市教委から指示するのではなく、里親と実親の話し合いでどういう部屋に入るか決まると考えている。
-小学生については理解したが、中学生は受験勉強や思春期でもあり、1人部屋がほしい留学生もいるかと思う。
(教育長)中学生の場合は1人1部屋が基本とすると説明した。
子どもの性格とか、里親の考えや環境があり、市教委が里親に強制することではなくて、常に話し合いのうえで、みんなが了解してやっていく、というのが基本だと思っている。
これまでの話し合いの中でも、受け入れ上限を決めようという意見もあったが、委員会は里親宅の訪問や話し合い、留学生の実親と留学生の思いを聞き、この里親宅には2人兄弟を入れようなど委員会の方で最終的に決めていく。
-里親の名称を「しま親」にすることで、里親の負担軽減になるのか。
(市教委)直接的な負担感の軽減には至らないが、問い合わせの中で児童相談所などから里親留学についての問い合わせがあった。里親をしま親と名称変更することによって児童福祉法にある里親との区別化を図れる。県の方針に沿うものでもある。