2020.6.0967年もの歴史に幕、あまごころ壱場が6月末に閉店

コロナの影響が閉店のきっかけ。今後は商社事業を継続し別事業も視野に

 

 先月25日、あまごころ本舗株式会社(大野妃富美代表取締役会長、鈴木利之取締役社長)は、郷ノ浦町東触で営業している島内最大の土産店「うに屋のあまごころ壱場」を今月末までに閉店することを決めた。一報を受けて島内には衝撃が駆け巡り、市民からは「倒産したのか」「廃業したのか、理由は何だ」などの憶測や当紙への問い合わせが何件もあった。また、「今後、壱岐の観光はどうなっていくのか」「負の連鎖はないのか」など、本市の行末を案じる意見があった。

 今からさかのぼること1953(昭和28)年、郷ノ浦町に壱岐名産店を開業したことから始まる同社は67年もの歴史を持つ、本市では老舗の店となる。そのため、閉店の話を聞いた市民の動揺は図り知れないものがあったようだ。

 同社は、閉店を決断したが、ウニの養殖場は継続する。ウニはキャベツを餌として養殖し、磯焼けに対応した手法が成功した例を持つ。また、閉店後の店内設備は維持される。料亭「あまごころ庵」も閉店となり、島内での観光事業は全て閉めることになるが、会社そのものは島外を拠点とするものの、従来基礎事業を活かした商社関連で継続される。

 

閉店の理由を聞く

 同社によれば、閉店は約5年前から経営的視野のもと、すでに考えにあったようだ。

 しかし、本年度の段階ではこの時期の閉店は想定しておらず、2月末までは原価計算の見直しや棚卸し、人材の異動なども予定し、新たな飲食メニューの構築も進んでいた。このような中、全国的に新型コロナウイルス感染症が広がりを見せ、売場には島外から観光客が訪れることから、本市への感染拡大と社員への感染を警戒した同社は3月から店を閉める決断をした。

 その後、3月14日には本市で1例目の感染者確認、4月上旬には立て続けに5人もの感染確認が起きる事態となった。この出来事から大野会長は「今後は、考え方を変えなければ」と思い始めた。しかし、このような中でも小さな旅行業者などからは、4月に来島したいとの要望もあった。コロナの影響が起き始めたこの時期、社員からは売上げを考えて受け入れすべきと意見が挙がったが、社内の感染防止を優先し、店を開けることはしなかった。その後、4月から5月にかけての本市への観光旅行者は皆無に近くなっていった。

 国が示した緊急事態宣言の時期、解除が予定された先月7日以降も影響が長引く場合は、完全閉店の覚悟を決めた。それには、この事態は夏場の観光にも影響を残し、年内はおろか2年先までコロナ禍以前までの売上げ回復は見込めないとの判断もあった。

 同社ではこの間、幾度もの協議を重ねた。しかし、売上げがゼロに近い中で経費はこれまで通りかかっていく。同社はまず、3月の市内コロナ発生状況を見て、今後の市内観光の事態を想定し、影響は続いていく可能性が高いと判断。4月には希望退職者を募った。事業経営者として先を見通していく目と勘が必要とされる時期だ。また、同時期に銀行員を交えて財務などの数字を確認。11月の決算時には億単位の赤字となることがわかり、このことが閉店を決断した理由となる。

 同社は徐々に事業見直しを進めていたが、今回のコロナ禍が閉店の決め手となった。

 

同社を例として本市の見通しを探る

 コロナ禍は閉店のきっかけとなったが、根底にある理由には同社の経営方針によるものが大きい。同社は郷ノ浦町での小さな店舗から始まり、現在の大型店へと拡張する中、本市の雇用確保に貢献をしてきた。しかし、約5年前から壱岐の島を統計的に見た時に、これまでと同じ経営をしていくことは難しく、「変化、変容」をしていかねばならないと感じたようだ。大野会長は「常に同じことをしていてもだめ。先代から67年間ウニを扱ってきたが、変化変容はこの業種にもあった」という。

 かつては「カラスミ、ウニ、めんたい」は3大珍味として観光客からもてはやされた。しかし、現代は昔と違い、ウニの購入者も減少している。これが、統計的に見たウニなど加工産品の今後を表す。事実、明太子専門店は早くから減少傾向に向かっている。ウニを食す人が減少していることは、数字が証明していると同社は言う。他のウニ生産地とは違い、離島であるための運賃コストも不利な面になっていた。また、製造加工関係に携わる従業員の高齢化もあった。

 この状況は、事業見直しと同時に進めていたウニ製造加工工場の縮小の理由にもなった。昨年10月に工場を閉める5年前から準備を進めていた。変化変容に事業を変えていくためだ。

 大野会長は今後の事業展開を厳しく見る。「今までのような事業は成り立たない。コロナを経て次元が変わった。リセットしなければならない状況も起きる」とし、問題がある事業や部署の見直しの必要を語った。現在と未来を見た「断捨離」が必要な時代が起きるという専門家の予想とも一致する。

 同社は現在、以前から同時に進めていた商社関係の事業を行なっている。福岡市や東京都、カンボジアなどに事務所を構え海外展開を進める。また、福岡市の本社ビルはマンション賃貸経営など、様々な基盤を持って事業を継続していく。

 

今後、本市の観光の受け入れの影響は

 コロナ禍は、今後2年間は甚大な影響が残ると経済専門家は口を揃える。一旦自粛や衰退した経済は、簡単には戻らないという見通しだ。また、コロナ第2波も予断を許さない。国が掲げたインバウンド(外国人観光客誘致)政策も遠い幻のような状況だ。

 本市は、壱岐交通や玄海交通が運行する大型バスでの修学旅行客や団体旅行客の誘致に力を入れてきた。しかし、大型バスが駐車できる敷地や、100人規模の団体客を一手に収容できる飲食施設、一括した土産物品が購入できる店舗がなければ、旅行会社や修学旅行を検討する各学校に対して、ツアープランの提案すら厳しくなる。

 同社の決断は経営判断のもと、誰も責めることができない。今後の本市観光受け入れは、どこかの市内民間会社が引き受けるのか、行政主導で団体客受け入れ施設を作るのか、現在はわからない。

 大野会長は「国や県、市などから交付金や補助金があるが、この先の経済や国がどうなるかを考えた場合、他力で依存しない自立運営が必要となる。行政も民間も自立していかねば」とし、今後も陰ながら本市の観光を応援したい考えを語った。