2022.2.22伝統の校歌改作で住民賛否
一部変更か全部かが焦点、波紋を呼ぶ歌詞見直し案の行方
時代に合う校歌を―。勝本町の鯨伏小で校歌の歌詞の改作をめぐり、地元住民の間で賛否が分かれている。100年もの歴史がある校歌は、在校生や卒業生だけでなく地域住民もなじみ深い。歌詞の一部に見直しの議論が起きたが、見直し案で歌詞全体が作り変えられたためだ。「歌詞すべてを変える必要があったのか」──などと地域に大きな波紋を呼んでいる。
4番まである歌詞のうち、以前から内容が校歌にふさわしくないとされていたのは2、3番。そのことから今では1、4番が歌われている。歌詞には2番に「韓を討たしし跡問わん」、3番に「元軍来り刀伊はよせ(途中略)紅葉はあけに血は染めり」などのフレーズが盛り込まれ、鎌倉時代の蒙古襲来(元寇)を思わせる内容となっている。同校歌は鯨伏中でも1969(昭和44)年まで歌われていた。
校歌を見直す動きは、2020(令和2)年から始まった。校歌制定から100年目に当たる2021(令和3)年に、低学年児童にも理解できて時代にあった歌詞にしようと、地域住民が学校に提案し、協議を開始。
協議では「2、3番は歌わないほうが望ましい。曲は変えず、歌詞を見直す」などの意見が上がった。同校で教職員を対象に実施したアンケートでも「歌詞の見直しが必要」との回答を多く得た。
2021(令和3)年5月、市教委より校歌見直しの許可を取得。同年、鯨伏地区の老人会や婦人会、PTAなどでつくる「鯨っ子育成協議会」で歌詞の見直しについて審議が行われ、賛同を得た。その後、同会は数回にわたり歌詞の内容を検討。曲は変えることなく、新たな歌詞を作った。
新たな歌詞について、地域住民から鯨伏地区を象徴する内容ではないなどと反発が巻き起こった。2番の歌詞を一例に挙げ「朝日を受けて学舎に」は「鯨伏は朝日ではなく夕日を受ける地域。まったく正反対」と指摘。
さらに「1、4番はそのままで良かった。適切ではなかったのは2、3番だけ。なぜすべて変えたのか」との疑問の声が上がるほか、「私達が伝統的に歌いつないできた校歌を無くさないで」と訴えた。
卒業式を目前にした同校では、保護者向けの学校だより(1月21日発行)で新校歌の完成を通達。これについても「卒業式で一度歌ったら元に戻せなくなる」などと地域住民に困惑が広がっている。
これを受けて鯨伏まちづくり協議会(原英治会長)は、地域住民437戸へアンケートを実施することを決めた。公民館長がアンケート用紙を配布し、全戸から回収した時点で結果を公表するとしている。
赤木健二校長は「市教委の指導を仰いでいる。時間をかけて整理していく」と話した。
同校の校歌は、作曲は勝本町本宮南触の山口常光氏、作詞は郷ノ浦町沼津の福田茂樹氏が担当し、1921(大正10)年に誕生した。
作曲者の山口氏は「軍楽隊の生みの親」といわれ、警視庁音楽隊や陸海空自衛隊音楽隊の創設にかかわった人物。胸像が同校横に建立されている。26歳で初めて作曲したのが母校である同校の校歌で、市内の学校では一番歴史が長い。