2023.11.21イルカの死亡をなくすために

イルカパークの方針を聞く

 

 勝本町のイルカパーク&リゾートに先月12日、新たなイルカが3頭搬入された。同園では2019年のリニューアルから今年9月までに7頭ものイルカが死亡し、残り1頭となったため、9月会議で補正予算1128万円が承認され、わずか2週間あまりでの措置だった。市側からイルカの連続死にまつわる調査発表がされないままのスピード導入に市民からの疑問の声が多数あがっている。同園の管理委託を担う壱岐パークマネジメント(高田佳岳代表)は8日、議員らにイルカ飼育の方針や改善点についての説明を行った。本紙ではその前に高田代表に取材を行い、その内容も含めて以降にまとめた。

 前号の記事でも紹介したが、イルカの連続死の一番の要因と思われた水質と海底土には問題がなかった。水質自体は筒城浜と同じくらいの検査値だという。イルカプールは袋状の入り江の奥に設置されているため、潮の流れが悪く水が滞留しているとの指摘もある。複数の業者に水面と水底の水と水底の泥を調査に出したが、いずれも有害な物質は検証されていない。

 高田代表は「他施設とも比較し、獣医にも意見を聞いているが、エラ呼吸する魚と違い、イルカは海水を大量に飲むわけではないので滞留していても直接的な原因とは言えない。ただ、水たまりで飼育しているような状況なので、独自で検査と清掃を行い、プール内に海藻を育てるなど水質改善にも努めている」と話した。現在は、外海側にいけすを設置し、奥ではポンプで海水を循環させている。同時に市に対して入江の入り口を広げる工事を要望している。

 その他の原因を探る前に、イルカをめぐる背景に触れておきたい。世界的にもイルカ研究の歴史は浅く未知の分野が多いため、考えうる対策を実践しながら検証するしかない。また、同社が管理を引き継いで1年とそれ以降で医療状況は大きく変化している。最初は市の方針を引き継ぎ、家畜専門獣医が診察したが投薬量や治療は牛が基準になっているなど適切なものとは言えなかった。3頭の死亡を経て約1年後、同園が国内でイルカの症例に詳しい獣医に診察などを委託している。オープン1年以内に死亡した3頭とそこから2年後に死亡した4頭以降は異なる医療環境にあったといえる。しかし、同じような要因での死亡は続いた。

 同園では、イルカの死因の多くが肝機能の疾患だったことから、食べ物、水温、運動不足、ストレスの4つの要因を考え改善を進めた。

 食べ物については、以前は一般的な水族館と同様にエサ用として流通する冷凍魚を与えていたが、同社が入ってから漁期と場所を明確にした人間が食べられる新鮮な魚に変更。町内で獲れた生きた魚なども与えている。

 水温に注目すると、同園の冬場の海水温は10度以下になる。イルカは冬場に調子を崩し、夏場に改善する傾向があるため、国内の水族館にも意見を求めたという。海水を直接汲み上げている北陸の水族館では、冬場は10度以下になるが健康状態に支障が及んでいないと聞き、可能性としては薄いと思われた。

 運動不足についてはいくつかの水族館から指摘をされた。ショーが無く、ふれあいが多い同園のような施設は運動量が少なくなってしまう。そこで、トレーニングの構成などを変更して取り組んでいる。

 ストレスに関していえば、そもそも同園は他施設に比べて来場者との直接のふれあいやショーが少ない。トレーニングもイルカが好きな時に参加し、嫌だと感じればやめられる内容に変更し、コントロールしないプログラムを多く採用している。また、海水循環のためプール内に引いた海水ポンプの音も懸念されたが、特に気にしてはいなかった。

 大学院で海洋汚染について研究していたという高田代表は、トレーナー達にも健康観察への意識を徹底させ、最低月に一度は経験豊富な獣医師の往診を行う。小さなことでも異変が見つかれば迅速に対応できる体制を整え、対策を続けている。

「今回導入した方法は、イルカの体調が悪くなってから始めたこと。後手に回っていると感じる。イルカパークとして開園して今まで20年あまりで29頭の購入記録があるが、3年以上生きたイルカは9頭しかいない。ひどい時には1年ももっていない。その状態で運営を続けていることが一番の問題だと思う。自分達が来てから変えるべきところに手を入れてきたが、結局死亡が続いた。イルカを想えば施設自体を別の場所に移すか、閉鎖した方がいいと考えているが、市の方針としてイルカを飼育するならば今できることに最大限トライしたい」と話した。

 

 手探りで改善に努める中、一つの希望もある。11年以上にわたって同園で暮らす推定年齢30歳のイルカの「あずき」の存在だ。なぜあずきだけが健康で暮らせたのか、その違いを解明する必要があると高田代表は考えている。

「あずきは薬を飲んだことがない。けれども元気に暮らしている。血液検査の結果だけですぐに薬を投与するのではなく、検査結果とともに個体の様子を観察して決めるべきだと思う。そのためには、常にイルカのそばにいてどんな行動を取っているか観察するくらいの意識が無いと」

 

 新しいイルカは大人で体が大きく、丈夫な個体を選んだ。4頭全部が健康に過ごすことが何よりの証明となる。同園の対応が適切かどうかを判断するためにも、市と市民も意識を持って見守る義務があるのではないか。問題が起きた時だけではなく、日ごろから島民がイルカに親しみ知識を付けることが死亡を防ぐ糸口になる。