2022.12.27【生活保護費返還請求】総務委員会の判断は賛成多数

 市議会12月会議の19日、総務文教厚生常任委員会(市山繁委員長)を開き、生活保護費の不正受給があったとして市が市民を訴える議案を審議した。市は、芦辺町の個人に対し生活保護費を不正に受給したと見なし、徴収金約223万円と延滞金の支払いを求める訴訟費用など、55万3千円の補正予算を上程。「債権回収に向けて、必要な手続き」として理解を求めた。市の対応を不服とした受給者は、長崎地裁や最高裁など裁判を起こし反論、費用返還の判決も不服とし、最高裁に上告するも棄却。これら経緯の説明を受けた同委員会は、最高裁の判断から賛成多数で可決した。※市議会本会議22日、市議会は賛成多数で可決。

 

 生活保護費の不正受給に対しての返還を求める議案についての議論は、議案審議の13日にも上がった。白川博一市長は「あくまでも法律に則った措置」と前置きし、「債権の回収は財政の安定から当然であり私の責任でもある。したがって、債権の回収には今後も努力をしていくという信念を持っている。私の立場は、法律に定められたことを守るということ」と答弁した。

 この答弁に反応した植村圭司議員は「今後、該当する他市民にも起こりうる事案か」と問うた。白川市長は「予測では答えられない」とした。

 この質問は総務委員会でも上がった。植村議員は「他にも同様の対象者はいるのか」と再び問うた。保護課長は「生活保護法改正前の2014年4月以前の対象者は、今回の受給者を含め9人いる」と明かし「他8人には督促状や戸別訪問などで対応している。生活に影響がない範囲での長期返済を進めている」と答えた。

 対象者9人のうち1人のみに訴訟する理由について、白川市長は「今回相手の受給者は、費用返還を否定し『不正ではない、支払わない』と自ら裁判を起こした。他8人とはスタンスが違い、話し合いもできている。裁判するまでの状況にはない」とし、今回の受給者のみ異例の対応であることを強調した。

 

不正受給とした根拠、「生活保護のしおり」と「弁明書」

 山口欽秀議員は「受給者の借金の把握は生活保護を受けた2010年以降のもの。保護申請で確認はしていたのか。受給者から借金の返済について何も話はなかったのか」と問い、市民部長は「生活保護のしおりに基づいて対応した」と答えた。

 市民部長が示した生活保護のしおりは、市福祉事務所保護課が生活保護受給者に対して最低限度の生活を保障するための決まりごとなどを記したものだ。

 今回の事例に該当する箇所として、守らなければならない生活上の義務に「基本的にお金を借りることはできない。借りたお金は収入があったものとして、保護費から差し引くことになる」「農漁協に従事されてない方で出資金がある場合、脱退届出で現金化に努めること。現金化の場合、福祉事務所に収入申告を行い、決定額を返還すること」とある。届出の義務には「収入が増えたり減ったりしたとき(資産の売却、仕送りがあったときなど)」と記載される。

 市は、今回訴えを受けている受給者の場合「これらはしおり記載の内容に該当する」と説明した。さらに2017年2月1日、生活保護費返還徴収の決定を不服とした受給者が県監査員に提出した審査請求に対して、市が提出した弁明書には「2012年3月に受給者は約750万円を支払う訴訟を受けていると報告を受けた。その後、同年4月に約750万円を返済していたことが判明。同年9月、2013年3月、2014年7月、同年10月、家庭訪問で収入についての報告を求めたが明確な回答が得られなかった。2016年7月、受給者の預金口座に2012年から2014年の2年間で、約400万円の入金があったことが確認された」などが記されている。

 その後、市は2016年9月と10月、家庭訪問で入金の事実と使用目的が借金返済であったことを確認した。同年10月、市は生活保護の援助方針や措置内容を検討するケース診断会議で、不正受給として費用徴収の検討を進めた。同年11月、家庭訪問で内容の説明、徴収決定通知書を手渡している。

 一方で受給者は「ケース診断会議の記録表には、『土地など売却金がすべて借金返済にあてられているのであれば、収入認定しない(収入にはならない)』の記載がある。事実、2012年、市社会福祉事務所からも同様の回答を得ている」として、「約4年後の2016年に市保護課が判断結果を一方的に覆した」と反論している。

 

真実を問う総務委員会

 市が市民を訴える異例の案件に対し、議案を審議する総務文教厚生常任委員会(市山繁委員長)は、事実関係を確認するため、市に対して経緯を問うた。

 山口議員は「市は収入申告しなかったことを不正受給としている。申告していれば良かったのか」と問い、市民部長は「仮に収入申告をしていたならば、生活保護費の支払い過ぎの分の返還となる」と答えた。

 今後考えられる強制徴収の可能性について、山口議員は「本人の経済状況を考慮せず、強制徴収していいのか」と問うた。市民部長は「債務名義の取得のために訴える。回収可否の回答は差し控える」とした。白川市長は「市は、支払いの強制執行ではなく債権回収の必要な義務を遂行している。そのための手続きを済ませねば先に進めない。そのためには、議会の採決もいる」と上程理由を述べた。

 音嶋正吾議員は「受給者は今回、最高裁の判断に対して再審請求を進めているそうだ。最終的な決定もまだ届いていない。受理か却下か不明なこの時期に、訴訟するというのはいかがなものか。市の手続きは正しいいがタイミングに疑問を感じる。再審請求の判断後でもいいのではないか」と意見した。

 市民部長は「現在、再審請求の認識はないが、あくまでも最高裁の判断を受けての訴訟準備だ。再審請求のあるなしに関わらず進めねば債権回収に進めない」とし、手続きを進めていく意向を示した。