2023.7.25「洋上風力発電」今期、国への手続き見送り

本市沖での導入可能性エリア抽出、本市側の条件そろわず

 

 2019年より、洋上風力発電の導入可能性エリア抽出に積極的だった本市の方針に対し、県は、市周辺海域5か所を抽出した情報提供を基にした国への今期の手続きを見送っていたことが、当紙の調べでわかった。今期の同海域での受け付けはすでに終え、これにより本市周辺海域での洋上風力発電導入の可能性は大きく後退した。県は「見送った理由がある」とし、今後も導入を進めるためには原因の解決が必要との見解を示した。

 

 市からの導入可能性エリアの情報提供を受け、県が国に対して進めている今年度の手続きの見送りは、現在のところ公式に発表はしていない。

 県の担当部署になる県産業労働部海洋産業創造室は「国の受け付けは、毎年2月から3月に始まり、5月上旬が締め切りになる。壱岐市の場合、今期は諸事情により見送った」と話した。見送った理由については「31日に壱岐市で検討協議会が開かれる予定なので、その場で経緯や見送った理由などを説明する」と述べた。

 国の受け付けは年度ごとに1回となり、今期はすでに締め切られている。来年度も受け付けは可能だが、県は「見送りとなった原因を壱岐市がクリアすることが必要」とし、現状のままであれば来期も見送られる可能性は高い。

 市SDGs未来課は「今期は見送られたが、国に提出すべき条件をそろえて、来期も県に提出する。海域周辺の漁業者への理解説明も継続する」という。

 当紙が独自に調べた中では、一部漁業者や組合員からの理解が得られなかったことなど、手続きに入るための条件がそろわなかったことが理由にあるようだ。

 

一部漁業者の理解が得られていない

 市は、壱岐の島ホールで3月27日、第3回壱岐市洋上風力発電等導入検討協議会(会長・河邊玲長崎大教授、22人)を開き、事業の成果及び今後の方針などについての意見を交わし、洋上風力発電の導入可能性エリアに市周辺海域5か所(図上)を抽出することを承認した。

 導入可能性エリアとは、漁協や観光事業者などの関係機関から洋上風力発電の導入について協議を続けることに一定の理解を得られた海域のことをいう。

 しかし、同協議会の意見交換では「本市周辺海域での導入について、県北海区の漁業者から反対意見が寄せられているとのこと。県はどの様に県北海区の漁業者と調整を進めていくのか」の質問に対し、事務局(市)は「状況の把握と、より良い導入のあり方を模索する」と答えている。

 また、別の意見では「本市西側の海域は重要な漁場となっているため、組合員からは厳しい意見があった。漁業者が導入を納得すれば、漁協としても合意できる。十分な説明と協議、調整を望む」「各漁協いずれも懸案事項が残っており、現段階では組合員の理解も十分に進んでいない」「これまで約3年間にわたり導入の可能性を検討してきたが、依然として漁業者の不安は払拭されていないように感じる」など、厳しい漁業者の声があった。

 このような意見について、白川博一市長は「漁業者の理解を得るためにも、実証事業を実施すべきだと考えている。これにより、影響が生じることが確認された場合は、その時点で洋上風力発電の導入を中止すべき。そのためには、まず、県への情報提供が必要となる」と述べ、県への情報提供に積極的な姿勢を見せていた。

 同協議会は、漁場利用への影響を最小限に抑えることや、船舶航行への配慮、景観、鳥類の生息環境などの配慮すべき条件を添えて県に情報提供(別表左)している。その後、県から国への情報提供を経て、再エネ海域利用法に基づく手続きに入る流れだった。

 

洋上風力発電導入に向けた経緯

 本市の周辺海域は、2019年より県が洋上風力発電ゾーニング導入可能性調査を実施、導入可能性エリアの検討の予備段階としての候補エリア(案)を選定していた。しかし、漁業の操業や航行に影響を与える可能性が高いこと、事業性の見通しなど、候補エリア選定に向けた方針を見直し、改めて漁業関係者との意見交換を重ねた。

 本市は2020年1月に同協議会を設置。同協議会は市民や漁業関係者、運航事業者らとの協議、調整を図りながら、候補エリア案を検討し、本年度中の承認を目指していた。

 浮体式洋上風力発電の計画が進む五島市崎山沖では昨年11月26日から風車の設置が始まった。年末までに8基が設置され、来年1月に稼働する予定だという。さらに、昨年10月30日、経済産業省と国土交通省は洋上風力発電整備の促進区域に西海市江島沖を指定した。県内では五島市沖に次ぎ2例目。今後、国が事業者の公募手続きを進めている。

 一方で、洋上風力設置に対して、平戸市の漁協などは漁業に影響があるとして反対していた。