2018.10.22縄文祭、約2000人が筒城浜に集結
参加者の大半は島外から。市民への周知や理解は疑問が残るまま開催
本市の観光大使を務める前田沙智(Happy)氏が企画する縄文祭が13日、筒城浜キャンプ場周辺で開催、約2000人の来場者で会場を埋め尽くした。来場者のほとんどは島外からの参加で、イベント開催前後のジェットフォイルやフェリーはほぼ満席。イベント終了後の深夜も、運営側の趣旨により会場内に朝まで寝袋で過ごす参加者であふれ、市内各所の民泊や各旅館などの宿泊施設利用は、当初の予定よりも下回ることになった。
イベント会場の筒城浜キャンプ場周辺は、13日の開催前から機材搬入やステージ設置を行う大型トラックや関係者らであふれ、イベント終了後の撤収作業も含めると約一週間を設営に費やし滞在した。島内野外イベントでは過去に例を見ない規模のため、周辺住民らは行く末を見守りながらの開催となった。
イベント開始は午後6時。和太鼓の演奏などの後に、ミュージカル「天の河伝説」(脚本・演出、旺季志ずか)のショートステージが開催された。
続いてステージでは巨大モニターとスピーカーを使い、「ええじゃないか」の歌と踊り、ドレスファッションショー、ダンスを開催。午後8時頃には、ハウステンボスで実績ある花火師による盛大な花火大会が秋空を飾った。
開始から約5時間が経つなか、イベント終了予定時刻の午後11時を過ぎてもさらに続き、終了は予定時刻を大幅に超える深夜0時半となった。参加者らは寝袋で芝生の会場周辺で一夜を過ごす予定が、天候急変で降りしきる雨のために体育館などを開放し、寝袋にくるまって朝を迎える状況となった。
縄文祭の参加チケットは高額だった。▽縄文祭チケットのみ3万3000円▽チケット・寝袋・朝セミナー・朝食付き5万5000円▽チケット・ステージ最前列エリア・寝袋・朝セミナー・朝食付き・鳳凰御守カード8万8000円。参加費は事前申し込みで販売。壱岐在住者については参加無料となった。
これまで本市で開催したイベントや祭りとは異色で、市民の来場もわずかだった。参加者はほとんどは島外者で、事前周知や住民説明不足など市民からは開催前から困惑の声が本紙に届いていた。
周辺住民は複雑な心境。生活航路にも影響
島内では過去に前例がない規模の野外ステージ設営と巨大なスクリーンモニターや音響設備に、イベント会場周辺住民は複雑な心境を明かした。前日に行われたリハーサル段階から、巨大スピーカーから鳴り響く音響に不満の声をあげ「携帯電話で通話中に音が鳴ると、会話ができない」「重低音が響き気分が悪くなった」など訴えた。また畜産農家は「地面から響く低音で、牛の育成に影響がある」と頭を抱えた。住民の一部は壱岐署に「どうにかできないか」と問い合わせをし、壱岐署では「同様のクレームの電話が来ている。確認する」などと返答した。運営側は一旦音量を落とし対応したが、生活に支障がないレベルには至らなかったようだ。
また別の市民からは「一週間後にはウルトラマラソンがあるのに、筒城浜のジョギングコースが使えず練習にならない」、他にも「健康維持のためにウォーキングをしているが、会場の機材設置などで5日間ほどコースを歩けない。この期間は駐車場も使えなかった」など、厳しい声もあった。
周辺住民はイベント終了後も同様の不満を漏らし、「今後も開催されることがあるなら、もう少し地域住民に配慮をしてもらえたらいいが」と話した。「周辺住民への説明と調和を求める必要も」と準備不足を指摘する意見もあった。
また開催当日、周辺道路は交通規制され、イベント開催を知らなかった通行者からは「何が起きているのかわからない」と疑問の声も聞かれた。
13、14両日のジェットフォイルやフェリーは事前予約による満席で、今回の状況を知らなかった市民や一般観光客の足にも影響が出た。「生活航路であるのに、2日間に渡って満席になるなんて」と憤りを示す市民や、「状況が事前にわかっていたのなら、なぜ臨時便などの増便で対応しなかったのか」と声を荒げる市民もいた。
一連の混乱は、運営側の告知や市民への配慮の足りなさが露呈した形だ。本市もイベント後援に名を連ねていながら、ほとんど市民に向けた情報発信や開催の詳細を伝えていなかったことも原因にあげられる。
市長自ら選任した観光大使
今年2月、壱岐の島ホールで壱岐を舞台にした新・古事記ミュージカル「天の河伝説」で、約1000人の観客を招いたHappy氏に3月1日、白川博一市長から観光大使委嘱状が交付されている。脚本家の旺季志ずか氏に協力を依頼したミュージカルの壱岐公演チケットは数分で完売、全国各地から本市へ観客が集まり宿泊施設は満室となった。
Happy氏はインターネットのブログを通じて「世界は自分で創る」をテーマに自らの意見や感想を発信する人気ブロガー。また全国各地でセミナーやイベントも主催。本市ではゲストハウス「月の器」(郷ノ浦町)のオーナーを務める。
本市観光大使はこれまでに約10人が任命を受けて、基本的には委嘱を受けた本人が辞退を申し入れるまでは無期限に任期が続く。これまでの委嘱者は全員、任期継続となっている。
観光大使は島外の各地で壱岐のPRや観光推進、壱岐のイメージアップを推進する重要な役目を負い、選任には本人の適正さや社会的影響などが考慮される。今回の場合、白川市長の判断で適正さを認めた形で任命されている。
世間の評価は賛否
スピリチュアルとは「天の声を聞きメッセージを伝えるなど、精神的や霊的な世界」とされる。現在はインターネットを介したスピリチュアルな自己啓発が増え、Happy氏もブログ内容や閲覧者のコメントからスピリチュアルブロガーと言われている。
世間の評価には、「多くの女性の思想や意思をコントロールしている」「天の声と称し、世間に伝えている」などの行為が指摘される。実際に今年、岳の辻にある龍光大神の祭事に、「天からの声により命を受け」などの発言をしている。一方では思いを現実化する「引き寄せの法則」などで、絶大な支持者がいることもわかっている。
観光大使の基準は
壱岐市観光大使設置要綱の第2条には「市長が必要と認めた者の中から選定し、市長が委嘱する」とある。市長は宗教色あるスピリチュアルブロガーが本市振興に必要と認めたことになる。また「本市にとって振興になるものは何でもやる」と繰り返し述べている。
Happy氏の団体は現在のところ宗教法人ではなく、政教分離には触れない。また一般人であるので厳密に言えば今回のイベントも異例ではあれ問題はない。さらに多くの来島者を動員している実績も評価すべき部分だ。
しかし世間の情報や評価、また本人の発言からも宗教色は払拭できない。周辺住民や他市民の声など様々な観点から、本市の観光大使に適任だったのかどうか、今後市長の判断が問われることになりそうだ。