2022.6.07島内の常識は島外では非常識

 先月25日にNHK長崎放送局が番組「イブニング長崎」で取り上げた、市長選後の入札指名外しについて取材した「地方選挙と公共工事」は、放送後の反響が当紙にも及んだ。放送直後から複数の市民から意見や問い合わせが殺到し、法的判決や賠償金支払いを終えた今も、市民の気持ちの中には釈然としないものが残されていることを再認識することとなった。よく言われることだが、法的な納得と心に残る納得とは大きく乖離することがあるという。このことを目の当たりにした放送後の出来事だった。

 放送では、原告である元壱岐産業の眞弓倉夫氏へのインタビューがあった。眞弓氏は、これまで当紙の取材や市長との面談でも「選挙に関連した入札指名外しは民主主義の根幹を揺るがす事態。公共工事の予算は税金であり、首長のメリットに関わる用途に使われてはならない」との旨を述べていた。同様の考えを番組の取材にも答えていた。

 専門家は「公共事業は税金であり、税金がきちんと使われるかどうかということに関わってくる。首長の判断で税金の使い道が決められることはあってはならない」と見解を示すが、まったく同感だ。公共工事の発注で票を得る行政トップがいるということは、逆に言えば逆らうと発注は得られないということ。まさにこの事態が入札指名外しの核心になる。

 その例として、放送では匿名を条件に市内事業者へのコメントを求め、その回答をいくつか紹介した。番組には「反対した人はかわいそうなものだった」「そういう地域柄というのがあるから」「村八分的なことがある。負けた方は、任期4年間は冷や飯…」などを紹介した。

 番組では読み上げられなかったが、他の事業者の意見もあった。そのいくつかに「勝てば官軍、負ければどうしようもない」「今でもそういうことをやるのか」「市長は選挙と入札問題は違うと言いたいんでしょうけど…」「選挙の結果次第では何かやばいことになるのではと思っていた。目立ちすぎるとこういうことになる」「業者だったらみんな公共工事で食べているから、選挙で反対したことが表に出るのは怖いと思う」「建設業界の中でも賛成反対はあるけど、息子が他の若手の候補者を応援したら、親が止められたり、そういう例もある」「分かってても誰も文句の言いようがない」。これらを読めば、いつの時代のことか、壱岐は未だ昭和のままなのかとさえ思える。

 番組ではわずかではあったが、市議会3月会議で市長への「不信任決議案」否決についても言及した。市議会は「市政に心血を注ぐことによって責任を果たしていく」として、市長への理解を示した。何をもって議会は「市政に心血を注ぐ」と思えるのか。よほど議会と市長とは固い信頼関係なのだろうと察する。

 当紙には市民から「この時期になぜNHKが放送したのか」との問いもあった。「なぜこの時期」ではなく、長崎市など島外からの視点では、ずっと疑問が残された出来事だったからだろう。その根拠は、放送後に県内島外者から当紙に対して「壱岐はなんて島だ。よく島民は我慢できるものだ」と半ば呆れた声が数件も届いたからだ。島内の常識は島外では非常識。そろそろ気が付かねばならない。