2021.6.01疑惑や不審には法的対応を

 先月27日から25日までにかけての市長リコール署名活動の30日間、署名を集める側と署名しない側のぶつかり合いは、まさに島を二分するまでに至った。その期間、当紙にも多くの意見や投書、署名に対して妨害と思える行為が起きているとの情報が寄せられた。市長の解職を求めるリコール側も、市長を擁護する側も必死の構えであり、良い意味で見れば市政への関心が高まるきっかけになった。しかし、悪い意味で言えば足の引っ張り合いや、根拠のないでっち上げで噂を広げる人など、呆れ返る事案が多かったことも事実だ。

 当紙へは「かれこれ、このような妨害を受けた。紙面に載せてもらえないか」「違法かどうかを調べてはもらえないか」など、報道の役割を超えるお願いや要求もあった。いわゆる「新聞沙汰」となるような事案は、被害を受けた者の確実な証言や証拠が必要になる。記者から最後に「では、裏取りのために詳細な証言と、万が一の時には身分や名前を明かす可能性もあるが、大丈夫か」との話に至ると、ほとんどの人が躊躇した。理由は「その後の報復が怖い」という。この発言が、今の市政を反映しているとは思えないか。

 市民の中にある「後が怖い」という心理が、リコール運動に反対する「署名しない」と書かれたチラシの価値を高める。各団体長や議員らが名を連ねていたことは、それだけで市民にとっては圧力になり行動を抑制されることにつながる。それほど権力を持つ者の名は、よくよく慎重に考えて記載しなければ、無言の圧力になりかねない。この件について、当紙にも意見が多く寄せられていたことからも的を射ているのではなかろうか。もし、この市民心理が分からないようでは、市民の代表に立つ団体長や議員などにはなるべきではない。

 また、リコールに記載された署名簿は、市の幹部職員や市長の目に触れるとの噂も流れた。これにより、報復があるのではとも言われた。このような行為は許されないのが事実だが、これまでの市政の積み重ねがそう思わせてしまうのではなかろうか。

 新聞の役割は、法律の判断や人を裁くことではない。これらは警察や弁護士の仕事になる。しかし、今回のリコール活動をはじめ、市民が市政に関する疑問や行き場のない理不尽さがあることも分かる。そのため、市には「市法令違反通報制度」がある。行政に関わる者が通報の対象とはなるが、有効な手段だ。昨年11月の紙面記事の一部を再掲したい。

【市法令違反通報制度】

 同制度は2017(平成29)年8月に施行され、市ホームページで制度を設けたことを公表し開始した。市職員など行政に関わる者が法令違反をしているおそれがある場合、市民や職員は市に対して担当弁護士に直接通報ができる。弁護士が通報内容を精査した後に受理となった場合、通報があった行為や事実について、必要に応じて調査や是正措置を行う。通報の窓口となる弁護士事務所は、市の顧問弁護士とは別になり、市や行政とは切り離された立ち位置にいる。当然、通報人の個人情報は守られる。

 通報の対象として、「行政職員などが法令に違反する行為やおそれのある事実があった場合」「個人の生命や健康、財産もしくは生活環境などを害し、これらに対して重大な影響を与えるおそれがある行為」など。同制度を定めることにより、市職員の職務の遂行の公平さに対する市民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り、公務に対しての信頼を確保する。

 驚くことに、通報制度があることを知らない市民が予想以上に多い。市議会や市民に向けてほとんど説明や周知がなかったためだ。現段階で唯一知ることができる方法は、市ホームページで「壱岐市法令違反通報制度」と検索するくらいか。

ホームページからは、通報内容などを記載する書面もダウンロードが可能で、送り先の住所やファックス番号、弁護士事務所と担当弁護士の名もある。通報の方法としては、それほど難しいものではない。