2022.6.14市民の安全安心は行政責務のはず
突如、6月議会補正予算に上がった、郷ノ浦町の認定こども園の建設計画は、まさに寝耳に水の事業案だった。十分な議論の余地さえもない議案に不満を持つ議員に対し、市は「国や県が認定したため、何も口出しができない。しかもこの事業は民間が行うもの」という。
しかし、国や県、市は多額の交付金を同事業に支出せねばならない。「民間の事業だから」の理由だけで意見を言えないなど、違和感でしかない。予定地は明らかに土砂災害特別警戒区域の周辺になる。これを知っても「何も言えない」で通るのか。
市民や保護者、市教委との考えの違いで対立の構図が生まれた、2016年の芦辺中学校の新校舎建設が思い起こされる。当時、土砂災害特別警戒区域内に建設予定地のふれあい広場が該当する事実がありながら、市教委は同地への建設を推進した。
しかし、これに対して市民や保護者らが反対の声を上げ、市教委は保護者説明会を開催。しかし、多くの保護者の納得は得られなかった。当時の保護者は「子どもを安心して預けられる安全な学校を望んでいる。しかし、なぜあえて危険な場所にするのか。大人の都合よりも子どもの安全を第一に考えて」との声が寄せられていた。
約6年前に起きた同中新校舎建設問題と同様に、今回も土砂災害特別警戒区域内周辺で計画が進められようとしている。市は「民間事業であり、国や県の権限にある」と説明する。しかし、近年は大雨や豪雨、巨大台風など自然災害が多発している。命の危険にさらされるのは国や県の職員ではない。本市の子ども達が犠牲になる可能性は否定できない。
市は、国と県が決めたからどうしようもないと言うが、実際に通う子ども達の安全はどう考えているのか。認定こども園の事業内容を否定まではしないが、建設予定地に関しては大いに口を挟むべきではないのか。子ども達の命を守るためだ。
全協では、ある議員から「民間事業に行政があれこれ口出すことは良くない、やってはいけない」との意見があったそうだ。この件については全面的に否定する。一体誰のための議員であり、何のための行政なのか。事業者の意向を優先し、住民生活を二の次にする考えにしか思えない。新たな計画があれば、最優先に考えることは、事業者の利益よりも住民の安全安心の確保のはず。
こう言うと「市政も分からない素人が何を言う。許認可にも決まりはある。それを無視しろとでも言うのか」と反論があろう。先手を切って言う。「市民のためには無理を可能とする努力が公職の仕事。後ろには二万数千人の市民がいるという自覚をすべき。最初からルールに縛られ、ルールに従うだけならば誰でもできる」。
今回の件に関して、民間運営だからと、市が口出しする権限がないという考えにはまったく賛同できない。市は予算の4分の1を支出する。これはれっきとした補助金であり市の財源、税金だ。言わずもがな、市民一人ひとりのお金でもある。
これに対して市や市民が何も言えないとはどういうことなのか。国や県に権限があろうが、この案件は本市に関すること。一言二言は言う権利はあろう。ましてや予定地は土砂災害警戒区域にある。子どもの安全を考えるならば「言えないから何も言わない」が正しい行政の姿とは思わない。市民の安全安心を守ることが行政第一の責務と、市長や幹部職員はこれまでも繰り返し発してきたはず。「権限に縛られ、権利を放棄するつもりか」。
市担当課は「今後、県が予定地の調査を行う。適地なのか判断し、不適地の場合は見直す可能性もある」と説明するが…。
繰り返すが、認定子ども園の事業内容にとやかく言うつもりはない。会議では子ども達の安全な生活が確保される適地なのかを問う議論を期待したい。同地と言うならば、安全措置は必須だ。そして、現保育所と住民への説明、市民の納得を得る努力だけは忘れないでもらいたい。