2023.9.26今一度言う。他人事ではない

 壱岐市民にとっては他人事とは思えないような出来事が、隣の島、対馬市で進められようとしている。対馬市議会による「核ごみ処分場文献調査」の採択だ。対馬市議会は12日の定例会本会議で、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場に向けた文献調査の受け入れ促進を求める請願を賛成10、反対8で可決した。議会の判断を受け、対馬市の比田勝尚喜市長は「今会議最終日の27日までに意見を述べたい」とし、今後の考えを示す見通しだ。

 当紙は「核ごみ」に関する経緯を、2月24日発行号の社説欄で「対岸の火事ではない。ともに考える時」と題した記事で掲載した。他市のこととはいえ、傍観するにはあまりにも近くの出来事であり、風評などの影響も起こり得るからだ。

 状況確認のため、以前の社説から一部を再掲する。「全国の核のごみは青森県六ヶ所村の中間貯蔵施設に溜まっているが、国内に最終処理施設はなく、一つの候補地として対馬市があげられた。経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)は2021年11月23日、対馬市内で説明会を開催。その時の説明で『核ごみは、地下300㍍超に埋められ、この深さであれば安全性も高い』という。説明を受けた参加者から、安全性と地元産業への影響などから核ごみに対する不安、一方で交付金への期待など意見が上がった。」

 2007年、対馬市議会は核ごみ処分場誘致の反対を決議。2020年、対馬市長選で処分場誘致を掲げる大阪府の男性が立候補、誘致しない旨を掲げた現職の比田勝市長との一騎打ちは、現職が当選となった。2021年、経済産業省などの説明会後、今年6月、対馬市内の事業者や市民など12団体が市議会に対して賛否の立場から請願を提出。先月、市議会特別委員会は建設業4団体が提出した文献調査受け入れ促進を求める請願を採択。反対の請願はいずれも不採択とした。そして今回の市議会9月会議で文献調査受け入れを採択した。

 地質や活断層の確認をする文献調査の期間は約2年。国は最大20億円を対馬市に交付する。以前の社説で「本市も対馬市も昨今の経済の疲弊は同様。目の前の巨額の予算に意識が向くのもわからないではない」と書いた。しかし、核ごみ処分場の影響は、確実に本市の観光や農海産物の風評に関わる。

 対馬市の賛成派は「人口減少は続く。20年後、自治体として存続できる人口を維持できるのか」という。反対派は「対馬市には未確認の活断層がある。想定外の影響への不安は大きい。交付金数十億円と比較すること自体がナンセンス」という。

 核ごみ処分場をめぐり、対馬市では市議会、市民らの考えは割れる。27日、比田勝市長はどのような発言をするのか。2020年の市長選で比田勝市長は「誘致しない」と明言し当選した。当選から3年、考えは変わらないのか、あるいは変化があるのか。半年後、対馬市では市長選がある。判断によっては選挙に影響し、島を二分するかもしれない。隣の島、壱岐も注目せねばならない。再び言う。「対岸の火事ではない」。