2019.7.30これ以上の問題先延ばしは危険だ
今回でいったい何度目の記事になるのか。繰り返し起こる交通ビルの老朽化に伴う外壁落下と、町の景観への影響、そしてビル下を通行する市民や観光客らの命の危険について。
昨年3月には同ビル正面玄関付近の庇の落下が発生した。ここはバスを乗り降りする乗客が待機し、付近の病院への通院送迎の待合に使用され、多くの人が往来する場所になる。運良く誰もいない時間帯に落下したため、ことなきを得たが。また、同年7月には商店街側の外壁落下が起きている。ビルの高さから見て中間ほどの位置にある外壁がはがれた。
今回、外壁の落下が危険視される箇所は、ビルの最上階付近。商店街通りの真上にあたり、万が一の場合には高度の関係から落下速度も上がり、破壊力もこれまでの外壁落下以上が予想される。23日時点での状況では、L字型の外壁が、ビル側面のさらにはがれかかった外壁に引っかかるようにして、落下を防いでいる。しかし、台風などの強風や大雨などのわずかな影響で、簡単に落下することは安易に想像できる。
昨年、同ビルの老朽と外壁落下の危険を取材した際、地域住民から「外壁落下で死人が出てからでは遅い」と厳しいコメントを聞いた。新聞紙面で「死人が出るかも」などの表現は適切ではなく、せめて「けが人が」と柔らかい表現にすべきかと悩んだ記憶が蘇るが、今にして考えれば、これ以上ない適切な表現だったと思える。地域住民は真剣に落下の危険性を感じており、ビル最上階からの外壁落下は、けがで済まされるほどの安易なものではない。
今回の外壁はがれの危険について、市危機管理課に問い合わせたところ「安全を確保するためのネットが張られているので、商店街通りへの直接落下は回避できると考えている」と答えた。この安全ネットだが、商店街側の外壁に張られてはいるが、同じ側面の外壁約3分の1部分には張られておらず、外壁のパネルがむき出しになっている。この状況について同課は「所有者の判断としか言いようがない」と苦しい返答に終始した。
交通ビルの老朽化問題は、これまで市議会で数人の議員が一般質問で取り上げ、市長をはじめ関係職員も所有者との交渉を行っていることは承知している。しかし、一向に根本的対策が進まないのはいかがなものか。ビル周辺には店舗などが隣接し、簡単に解体用の重機を導入できないこともわかる。また、行政で解体などの執行をするにしても、多額の予算が必要となることもわかる。老朽化がかなり進み、修繕や改装などで再利用することも難しい。所有者との交渉が難航していることも市議会などで報告されている。
出来ないことや、難しいことの理由をいくら並べたところで、危険を回避することは出来ない。むしろ、年月がたてばたつほど老朽化は進み、危険度は増す。地域住民が「死人が出てからでは遅い」と言うが、このままでは本当にけが人や死人が出てから初めて重い腰を上げることになりはしないか。行政や政治は「市民の安全と安心の生活確保」が責務のはずだ。
市は、来年度から5年先に向けて市の将来像や施策の重要な方向性を示す「第3次市総合計画」を策定中だ。委員らの審議内容には「誇りが持てる壱岐島」を示す。これは地域経済の好循環や地域コミュニティが守られ、安心して暮らせるなどの意味を持つ。また、前々号で示した1億4000万円の事業「壱岐島リゾートアイランドプロジェクト」では、島の魅力向上をテーマとしている。
様々な施策が打ち出されるが、表面だけの立派な案を掲げ、肝心の部分が抜け落ちているように思えてならない。商店街のど真ん中に廃墟と化した危険な建物が構える中で、商店街や町の人たちにどのようにして「誇り」を持ち「魅力向上」をせよと言うのか。多額の予算を組み、島外へ向けた笑顔のアピールをする前に、もっとやるべきこと、考えるべきことがあるのではないか。「張りぼて」の島にならぬよう、市民や我々も目を光らせていかねばならない。(大野英治)