2019.3.21島の未来を想う共通意識
8日の一般質問での町田正一議員の発言は、玄海原発と白血病の因果関係を報道した本紙についてのものだった。声を荒げる町田議員の言動の趣旨は「風評被害になるのではないか」に集約されていると受け止めた。報道することによる風評被害の影響は、情報を目にした当初から記事をまとめていく工程でも、自問自答しながら書き進めたのが本音だ。議員発言の意味は理解している。
議員は「原発との距離と病気との科学的な根拠はない。また、統計学的にみて信用できる数字ではない」という。本紙341号などに掲載した数値は、県が公表したものだ。そうなると議員が言う理屈は「県の公表数値は統計学に反する。信用できない」となる。科学的な根拠については、現時点で専門機関の調査は行われず、同様の件で健康被害についての訴訟も起きている。当紙は繰り返し伝えている。「科学的根拠がわからないから調査すべき」であり、調査の必要性以外は訴えていない。
当紙が考える問題点は、「玄海原発と病気発症の距離の関係」のみではなく、別の部分にもある。本紙341号の1面に表で示したように、玄海原発稼働前と稼働後における白血病死亡率の変化の部分だ。県が公表した数値をもとに、5年ごとの推移を表で見ると、白血病死亡率の割合は上昇を示す。しかも約6倍もの増加を示している。掲載した表は、他自治体との比較ではなく、本市のみのデータである。このことからも原発との因果関係に疑問が生じた。
議員が繰り返し訴えていた「風評被害になれば誰が責任を持つのか」との発言を受けて、逆に問う。「もしも調査の末に、原発の影響があった場合は誰が責任を取るのか」。原発30㌔圏内に含まれる壱岐住民だ。少しでも不安要素があれば、調査要求は当然ではないのか。関係機関当事者の発表のみを受けて「大丈夫だ」と考えることは、取り返しのつかない危険を生む可能性もある。あの福一原発事故後、東電をはじめ関係機関による後手の発表を見て、なんら思わないのか。一体何を見て、何を聞いて、何を学んできたのか。今も続く健康や日常の生活の不安面などを目にして、我々は「明日は我が身かもしれない」と考えねばならない現代にいる。
議員は報道についても述べた。「これらは報道の自由ではない記事だ。行政として抗議すべき。匿名で人を攻撃する悪しき風習だ。百害あって一利なし」という。発言は議員個人の考えであり言及は控えるが、「匿名で攻撃」のみ反論する。当紙は匿名での投書は原則受け付けず、実名で受けたものを、投稿人の希望で掲載時のみ匿名に変更する。なぜかかつて島内にあった新聞社を的にした発言をしていた。
匿名の他者攻撃は良くないが、匿名の投書や陳情を排除する考えは疑問だ。誰もが名を名乗って言えるほど強くはない。中には勇気を振り絞ったゆえの匿名もある。政治は弱者の味方であるべきだ。
当紙の趣旨は、前号にもあるように「不透明ならば透明にすべき。不安があるなら払拭すべき。誰も被害は望んでいない。無事であるならばそれに越したことはない」。いたって簡単な論理しか言っていない。
しかし、議員のような熱のこもる発言者は嫌いではない。日和見でクールさを装う議員よりはるかに良い。考えは違えど、郷土の将来を憂う部分では同じだ。もっと意見を交わし、良き未来を構築できればこれ以上のことはない。(大野英治)