2023.9.19洋上風力発電、実証試験機導入の考え示す
国の防衛機関と島外漁業者との合意形成を進めていく方針
市議会定例会9月会議の行政報告で、白川博一市長は「洋上風力発電の実証試験機の導入」に向けての考えを述べた。2019年より積極的に推進してきた洋上風力発電の導入可能性エリア抽出を目指す市は、7月31日に開かれた「市洋上風力発電等導入検討協議会」で、県から「今期の導入可能性エリア抽出が見送られた」との報告を受けた。見送った理由について、県は「島の西側、東側北部の5エリアのうち3エリアは防衛システムに影響する」と説明。さらに、「漁業に支障を及ぼさないこと。市内外の漁業者への説明と理解が足りていなかった」などを理由とした。この状況から、市は実証試験機導入を検討し、導入に向けた新たな方向性を探ろうとしている。
市は、県と国が今期の導入可能性エリアの情報提供を見送ったことにより、新たに洋上風力発電の実証試験機の導入の考えを上げた。市は「今後は海域の選定、利害関係者との合意形成、財源など検討すべき課題はある。先行地域では実証試験により、洋上風力発電に関する理解が深まっているという事実があり、本市としても今後、実証試験機の導入の実現を目指す。検討協議会の承認もある」との考えを示した。
導入可能性エリアの情報提供見送りについて、行政報告では「国の防衛機関との協議、市外の漁業関係者などとの合意形成等について、市単独での対応は非常に困難である」と述べている。
理由として2つの懸念事項を上げた。行政報告では「国の防衛関係施設等への影響により、導入可能性エリアの一部について風力発電設備の設置が制限される恐れがあることから、発電事業として必要となる規模のエリアの確保が困難と見込まれること」「導入可能性エリアが、本市の共同漁業権外の一般海域であることから、市外の漁業関係者等も操業する海域となる。しかし、市外の漁業関係者等利害関係者との合意形成が不十分であると判断した」と説明している。
市は来期以降の導入可能性エリア抽出に向けて、国の防衛機関と島外漁業者などとの合意形成を進めていく方針を示した。そのため、県との連携を強化し、引き続き導入可能性の検討を継続していく考えだ。
これまで県は、市や市議会に対して、国の防衛施設への影響の説明はしなかった。不審に思った山口欽秀議員は、市議会9月会議で「洋上風力発電の導入可能性エリアの情報の国への情報提供の見送りについて」、植村圭司議員は「洋上風力発電の導入可能性について」の質疑を行った。
「非常に解決が難しい課題」
導入検討協議会で交わされた意見
県は、7月31日開催した「市洋上風力発電等導入検討協議会」で、再エネ海域利用法に基づく市からの情報提供に関して、県から国への情報提供を見送った経緯を次のように説明している。
「今回の案件について、国への情報提供を見送った理由としては2点ある。1点目は、防衛レーダーの影響に関する問題。指定基準では『海洋再生可能エネルギー発電設備の出力が相当程度に達すると見込まれること』という基準だが、防衛省へ事業性の確保ができるのかについて確認する必要性が生じた。
2点目は、漁業関係者等の利害関係者との調整状況について、指定基準では「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれること」とされ、県としては漁業関係者の理解が重要だと考えている。
さらに「防衛関係施設への影響については、4月以降に判明したことであり、解決が難しい問題であると認識している」とも付け加えていた。
県は、来期以降の国への情報提供について「これまで市が中心となり説明に取り組んできたが、市が示した導入可能性エリアは共同漁業権外の一般海域にあたる。市外の漁業関係者も利害関係者となるため、現在の調整状況や理解の状況では、十分であるとは言えない。県としては、これら2つの課題が整理された後に、国への情報提供を行いたい」と説明した。
本市周辺海域の場合、勝本町の若宮島にある防衛省の防衛関係施設レーダーへの影響が大きい。防衛省は県に対して、「対馬海峡が国防において非常に重要な場所。洋上風力発電設備が壱岐島の周辺海域に設置される場合、場所によっては、風車の高さや間隔に関係なく、レーダーやさまざまな関係施設に影響が生じる。風力発電設備によって影ができることで、防衛上、致命的な影響がある」とのことだった。
防衛レーダーへの影響が大きいという点について県は、「導入可能性の候補海域の『見直し』に着手する必要がある。市が新たな候補海域を検討する場合は、島内外を含めた利害関係者との調整・整理したうえで、市と協議をしたい」と述べた。
説明を聞いた同協議会委員は「壱岐の北部島にある防衛レーダーのエリアを考慮すると、導入可能性エリアの設定自体に大きな影響があり、壱岐周辺海域では、洋上風力発電設備設置の条件に当てはまるところはほとんどないのではないか」と落胆した。県は「この事実は非常に解決が難しい課題」との考えを述べるにとどめた。この回答で委員から「そうであれば、実証自体も難しいのではないか。仮に、実証試験機を導入できても、その後、商用機が設置できないのであれば、試験機の意味がない」と厳しい意見が上がった。