2025.11.10本市の地域医療に新たなモデル

富士通と玄州会、AI活用で医療経営を改善

 

 光武内科循環器科病院や老人保健施設など、地域医療の中核を担う社会医療法人玄州会(光武孝倫理事長)は、富士通(神奈川県)と連携し、AI(人工知能)を活用した経営を支援するシステムを開発したと発表した。診療報酬制度への対応効率化や病床稼働率の最適化などで成果を上げた。新システムの活用により、病院の年間収入が約1割増加する可能性を試算した。離島医療を支える地域病院として、持続可能な経営体制を模索する試みだ。

 

 実証には、富士通のデータ分析基盤が導入された。玄州会の病院運営に関するデータをAIが自動解析し、施設基準の遵守状況や診療実績を可視化。診療報酬制度に基づく請求データの精度を高めることで、返戻金の削減や収益改善につなげた。AIによる分析結果をもとに、医療従事者の業務効率も向上し、経営全体で約1割の増収が見込まれている。

 玄州会は市内で地域医療を担う中核法人として、これまで高齢化や医師不足、診療報酬制度の複雑化など多くの課題を抱えてきた。今回の実証は、AI技術を活用して経営課題を可視化し、現場の負担を減らすことを目的に実施された。

 主な改善は、これまでは職員が人手で行っていたベッドの割り当てを自動化する、患者の病状などに応じたベッドの割り当て業務。もう一つには、診療報酬を算定するために定められた職員の配置数や設備などの施設基準の管理を、これまでの手作業からAIで自動化した。

 富士通の支援は、単なるデジタル化支援にとどまらず、医療と経営の両面で持続可能な地域医療モデルを構築する狙いがある。AIがデータを解析しても、最終判断は医療スタッフが行う。光武理事長は「AIによって得られた時間を、患者と向き合うための時間に充てたい」と話している。

 富士通は市との「エンゲージメントパートナー協定」(先月28日に締結)の一環として、今後も医療や介護、地域課題での連携を進める方針。今回の実証成果をもとに、全国の地域医療機関への展開も視野に入れている。

 医療現場では、デジタル技術の導入が進む一方、患者との信頼関係や人間的ケアをどう守るかも課題だ。本市から始まったAI医療実証は、地域医療の新たな可能性と、医療の本質を問い直す試みとして注目されている。