2024.10.29市に提案、柳田保育所を認可制に

へき地保育所閉所問題、地域住民「市長の政治的判断に委ねる。これからは新市政の色を出す時期」

 柳田保育所の閉所に関する説明をするため市は7日、柳田保育所で保護者と地域住民を対象に説明会を開いた。市は、閉所に関する条例可決を経て来年3月末に閉所を進める意向を示す一方、保護者と地域住民は「一時存続を求めた請願も可決されているが、市の扱いが軽い」と不満を漏らした。住民らは今後の柳田地区と保育所のあり方として、新たに柳田保育所の認可制を提案した。この提案に篠原一生市長は「閉所の方針に変わりはない」とするが「認定こども園開設に向け全力を尽し寄り添う」と答えた。

閉所条例可決、一時存続の請願可決

ねじれで生じた埋まらぬ市と住民の溝

来年3月末に閉所が予定されている柳田・志原保育所のあり方をめぐり、市は市議会9月会議で両園の閉所に関する条例を提出、審議した市議会は閉所に賛成8人、反対7人と拮抗した採決で閉所に決まった。一方で、保護者や地域住民は柳田保育所の一時存続などを求めた請願を市に提出、審議した市議会は賛成8人、反対7人で請願は採択された。

 市議会の判断は、閉所に向けた条例改正を可決、柳田保育所の一時存続などを求めた請願も可決するという、矛盾した結果を生むことになった。このような混乱が生じた中、柳田・志原保育所閉所に関する説明会が開かれた。

 約3時間に及んだ説明会は冒頭から荒れ、地域住民と保護者は市の進め方に異を唱えた。市と篠原市長が会の始めにいきなり柳田保育所閉所セレモニーの提案をしたからだった。

 請願を提出した保護者は「市議会は閉所の条例を可決したが、一方で一時存続を求める請願も可決した。しかも双方の採決はほぼ半数に割れる拮抗したものだった。民意を反映した市議会は、すべてを市の方針に賛同するものではない。しかし、今回の説明会をはじめ、市は住民に対して方針を一方的に突き付けるのみ。市長は市民に寄り添うというが、少しも感じられない」と反発した。

 さらに「篠原市長は請願に対しての回答、いわゆる市民との向き合い方に真摯ではない。市議会の議決をどう考えているのか。市は条例の可決を押し付けるが、一時存続を求めた請願の採択の重みをまったく感じていない。とても市民の声に耳を傾ける、心ある市政とは思えない」と意見した。

 他の地域住民も「請願は住民の権利。しかも採択された。それを軽く扱うなど、行政による職権濫用とも言えるのではないか」と指摘した。別の住民は「市長は請願の内容には一切触れず、条例が可決したとして会の冒頭から閉所セレモニーを進めようとした。まったく住民や保護者の気持ちを理解していない」と憤った。

 篠原市長は「条例が可決したことで、柳田保育所の閉所は進める。請願にある今後の説明会や認定こども園計画も進め、保育所の集約化に努める」とのみ回答した。住民側は「答えになっていない」と反発した。

 

「市による職権濫用」と厳しく批判

 保護者側は「今回の市議会採決は、そもそも疑義が残るものだった。請願を提出した当日の夕方以降、請願に署名した議員を主として個別に訪問し、条例に賛成、請願に反対するような働きかけをしたのではないか。この時、5人の議員宅を回ったと聞くが、このような不公平が許されるのか」と意見した。

 地域住民は「閉所条例の審議で突如、市は志原保育所の閉所も盛り込んできた。今回の一時存続の要望は柳田保育所に限っての話だったはず。すでに休所している志原保育所を持ち出すなど、狡猾ではないか。このことによって、一部の議員は『柳田は残したいが、現状で志原保育所の再開は難しい。条例に賛成せざるを得ない』などと言っている。是が非でも閉所条例を可決にするという意思が見える」とした。

 別の住民は「市は、議会採決に向けて議員宅訪問をし、閉所に関して地域の反対はなかったと説明した事実がある。さらに、市子ども子育て会議で柳田保育所閉所の議論がないにも関わらず、あったようにも説明した。これら虚偽と思われる行為も市の職権濫用に当たる」と指摘した。

 

柳田保育所を認可制に

 市が強引に進め、議会採決に疑念があると主張する地域住民と保護者は、柳田保育所の一時存続を主眼に、市に対して新たな提案とそれについての検討を求めた。

 保護者と住民側が提案した内容は、柳田保育所の認可制への変更だった。住民の提案では「給食が無償化となる以前は、柳田保育所には50人近くの園児がいた。柳田保育所から無償化の別の園に移ったことで園児が減った。しかし、交通の便や立地的な面から見て、柳田地区の需要と必要性は十分にあるはず」とし、「市は柳田保育所を認可制にし、給食の無償化などで続けるべき」と提案した。

 これまで市は、柳田・志原保育所閉所に伴い、同町の武生水保育所や他町への転園を提案してきた。この方針を善しとしない保護者は「郷ノ浦町は公務員などの転勤族も多い。武生水保育所が定員オーバーの場合、転勤族は他町の保育所にしか入園できない事態が起きる。実際に転勤の場合に不安だという県職員もいる。柳田保育所を認可制にすれば問題は解決する」と提案した。

 認可制保育所は19人以下の園児であれば、市長の裁量で認可が可能だ。また、小規模認可保育所の可能性も考えられる。

 篠原市長は「市の方針として、いずれは認定こども園への移行がある。公設民営、民設民営など考えられる。提案に対し、この場で即答はできない。閉所の方針に変わりはない」と答えた。

 地域住民は「あとは篠原市長の政治的判断だけだ。4月に新たな市政になった。いつまでも前市政の顔色をうかがうのではなく、篠原市政の色を出す時期。市長の判断に委ねる」とした。