2024.11.18第3回イルカパーク管理・環境等検討委員会、施設存続のために死因検証
市は、壱岐イルカパーク&リゾート(以下、イルカパーク)で、2019年4月のリニューアルから7頭のイルカの死亡が起きたことから、施設の管理・環境などの検証を進めている。調査を進める委員会は計3回開かれ、今回が最終会合。委員会は「イルカパーク飼育下のイルカは海外などの例と比べ寿命が比較的短い。死因の推定は、肝機能不全が一因している。施設と飼育環境などの整備が必要。死因究明のため、今後も継続した調査を求める」などと報告した。市は「予算を伴うものは議会に諮ることになるが、できるところから進めていく」と答えた。
水質など施設環境の整備が必要
水質や飼育環境の確認、死亡したイルカの原因などを検証するため、市は6日、市役所郷ノ浦庁舎で第3回イルカパーク管理・環境等検討委員会(東京農業大学准教授・川嶋舟委員長)を開いた。
同委員会の構成委員は、長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科の天野雅男教授、国立環境研究所で生物工学や水質・環境化学などを専門とする牧秀明主幹研究員、イルカの飼育管理を専門とするR-Dolphinの駒場昌幸代表など。生物の生態に詳しい専門家がそろい、飼育環境や水質などの考えをまとめた。また、イルカパークの指定管理者イキパークマネジメントの高田佳岳代表、勝本漁協の小畑剛参事、市農林水産部、市企画振興部の両部長も加わり、施設の安定的な飼育管理と生育環境を話し合った。
8月2日の第1回の会合内容は、死亡したイルカの治療薬投与の量や、インストラクターの経験値、死亡解剖などの解明状況など。先月2日の第2回の会合では、専門家による施設内の水質環境や冬場の水温、気候による水質の変化などから、いくつかの死亡原因の仮説を立てた。当初より3回の協議で一定の結論を示す予定だったことから、今回の会合では委員会でまとめた報告書を市に提出した。
報告内容では、海外の飼育下にあるハンドウイルカが30~45年生存したという記録があるが、イルカパークでは平均飼育年数は3・4年と短命である。死因の推定では、肝機能不全が死因の一つであることを挙げた。環境では、海水面の塩分の低下、冬季と夏季でイルカにとって過酷な水温にあること、外洋との循環が足りず、滞留による水質の悪化、底層の溶存酸素量の低下を挙げた。いずれも、短期間の調査の上での推測であり、継続した調査が望ましいことを意見した。
今後の対応では、飼育環境の整備や施設スタッフの経験値を上げること、治療のための環境を管理できるプールを設置、イルカパーク内の環境を外洋の環境に近づけるための護岸の撤去などを挙げた。
施設整備などにかかる費用面では「費用面で改善策を実施することが困難となる状況はできるだけ避けなければならない。市は、ハードとソフト両方の費用面で可能な限り配慮を願いたい」と付け加えた。
報告を受けた中上良二副市長は「イルカパークは本市の発展と産業の振興、観光を含めて市民の貴重な憩いの場である重要な施設。今回の報告書を受けて、イルカにとってより良い環境になるよう、対応していきたい。施設整備の費用など予算を伴うものは議会に予算計上で諮ることになるが、できるところから進めていくことが必要」と答えた。
海水の塩分低下、イルカに影響あり
前回の委員会で新たに施設内海水の塩分低下の可能性を示唆した牧委員は、ハンドウイルカへの低塩分の影響についての米国の文献事例をまとめ、各委員に示した。
同施設は、浅瀬などにより外洋と隔てられていることから、大雨になれば湾内表層の海水の塩分濃度が低下し、淡水のような状況になるという。前回の会合では、牧委員が「3月以降に施設プール内に設置した測器記録から、表層の塩分が5月以降の降雨により低下、3月には塩分は約34だったのに対し、7月12日ごろは最低19まで低下、8月終盤まで20台のまま」とのデータを示した。
今回は「2019年にメキシコ湾と大西洋のフロリダ半島周辺沿岸海域での流入河川大出水後に、低塩分化した海域でのハンドウイルカの大量死があった。その後の調査で、ハンドウイルカの血液成分の分析結果では、水分吸収や浸透圧調整に係る血中の尿素やホルモン濃度、肝臓の状態を表す酵素の上昇が見られた。低塩分環境下にいたハンドウイルカには外皮上の異常があった。しかし、低塩分環境下での生理的悪影響の有意な上昇は、すべての場合に見られるとは限らない」と意見し、低塩分の海水がイルカの生態に影響する可能性を示した。
その一方で「ハンドウイルカの生息行動域の塩分との関係では、低塩分を忌避する行動をとらない。しかし、皮膚の損傷、浸透圧低下など血液成分の変化が認められた」と述べ、低塩分の海水の中、体調を壊す危険性がありながらも、忌避しないイルカの特性がさらに体調悪化を招く例があることを強調した。