2024.9.17深まる溝、住民が請願書を提出

市議会全員協議会が異例の公開審議。へき地保育所閉所問題で

 

 郷ノ浦町の柳田と志原地区へき地保育所閉所の方針をめぐり、へき地保育所の存続を望む会(頴川加奈江、田中愛妃共同代表、以下、望む会)と柳田保育会の法村洋介会長は先月30日、市議会の小金丸益明議長に対し「へき地保育所の閉園延長に関する請願」を提出した。市と保護者、地域住民の間での話し合いは平行線のまま、望む会は「市は一向に私たちの声を聞き入れてくれず、何を話しても、もう閉所は決まったことと一蹴するのみ。このままでは市に対し私たち保護者、地域住民との溝は深まるばかり」と話している。

 請願には紹介議員として中田恭一議員、賛同議員には8人、計9人が連名している。

 中田議員は「なぜ、市は住民と保護者への説明が1年前にできなかったのか。市民の声を聞かないとなれば、市と市民で溝は深まるばかりだ。ここ1年の猶予を設け、じっくりと市民に説明をしていくことが良い」と請願に賛同した理由を述べた。

 市議会9月会議で市が提出した「市へき地保育所に関する条例の一部改正」で、閉所を事実上の決定とする市の考えに対しての反発と見られる。さらに、これまで2回に及ぶ「柳田保育所閉所に関する説明会」を経て、地域住民と保護者らは「幾度も話し合いを尽くしたところで、篠原一生市長と市いきいろ子ども未来課は『すでに決まった方針』を繰り返すのみで、一向に私たちの意見に耳を貸そうとはしない」とした、市の対応への不信感が請願提出に至った理由だ。

 請願書には「先月6日、20日に行われた柳田地区・保育所保護者合同説明会において、担当課よりへき地保育所の閉所に関する説明が行われたが、柳田地区公民館への説明は同月6日が初めてであり、地域住民が十分に納得できていない状況で来年3月末の閉所は望ましくない」として、市による住民と保護者への説明の不備を指摘した。

 また、「柳田保育所保護者も立地や小規模保育の環境を望んでいる。市と地域、保護者や子育て世代間に大きな溝がある。今後は市と地域、保護者が溝を広げるのではなく、寄り合いながら新たな保育所運営を行っていただくために次のことを請願する」とし、市議会に対して要望を提出した。

 要望には、①柳田地区の立地を踏まえ、柳田地区の需要性をみるために、今年度募集園児の制限をかけずに閉園の延長を行うこと。

②今後、閉園については需要性、民間保育所との調整を図りながら地域住民や保護者に丁寧に説明を行い進めていくこと。

③閉園延長期間内に、新たな保育環境を望む市民の意向に寄り添い、認定子ども園の具体的な計画や今後の保育所運営について再検証すること-の3項目を求めた。

 

市議が市と意見交わす、「市民に寄り添う市政を」と強調

 請願書を受け5日、市議会9月会議の全員協議会は、報道と柳田保育所に関係する保護者、地域住民のみ入室傍聴を可能とする異例の開会となった。通常、全員協議会は市議と市執行部以外の入室傍聴は禁じられ、市民や報道には非公開で進められる。今回の事態の重さから、市議会は一部公開の措置とした。

 市長と担当課課長、市民部長は「想定を上回る児童の減少で、集団生活での学びや活動に限界を来たしている」などとし、武生水保育所園長は、集団で学べることの重要性などを説明した。このような理由から「市としては閉所の方針を進めていく」とした。

 市の説明を受け、議員からの質疑が始まった。

 中原正博議員は「なぜ市は住民ともめているのか、それは早い段階から説明をしてこなかったからだ。しかし、市の将来を考えれば閉所は致し方ない。園児のことを最優先した判断を」と閉所に賛同した。

 山口議員は「住民と保護者は柳田保育所をずっと残せと要望してはいない。保護者や子どものことを考えるならば、しばらく閉所を延ばすべきだと思う。状況に合わせて方針を決めることが最善」と意見した。

 清水議員は「説明が遅かった反省点は市も認めている。ならば、保護者への寄り添いも考えることではないか。柳田に通わせたいという保護者がいるならば、市はそれに応えるべき。今回、9月に閉所の条例案を出したのも適切な時ではなかった」と述べた。

 音嶋議員は「石田こども園ができる時は、市は保護者に寄り添った丁寧な説明会を何度も開いたではないか。なぜ今回はそれができないのか。これまでの市の説明を聞けば、良い部分だけ説明して納得させようとしている。私たち市議や保護者、住民をマインドコントロールにかけようとしている。過去の子ども子育て会議の議事録も不明瞭すぎる。このようなことが許されるのであれば、すでに民主制ではない。恐ろしいことだ」と厳しい言葉を突きつけた。

 市山議員は「郷ノ浦町のへき地保育所の子どもたちが、同じ町の保育所に入園できるよう、市は寄り添った対応を提示してあげればどうか」と提案した。

 赤木貴尚議員は「柳田保育所は築53年が経って、トイレなどの整備もできていない。私たち議員はもっと早く取り組むべきだと思っていた。閉所を延期というが、そのような環境に子どもを預けるのは賛同できない」と閉所に前向きな考えで意見した。

 植村議員は「この問題はこれまで、総務文教厚生常任委員会(以下、総務委員会)で審議してきた。実はその委員会内でも疑問が起きていた。このことから産業建設常任委員会(以下、産業委員会)の各委員にも伺いたい。へき地保育所に関する答申を見た記憶があるか。見た人は挙手を願いたい」と問うた。

 昨年8月、市子ども子育て会議から市が受け取ったとされる答申について、総務委員会の委員全員が記憶にない経緯があったからだ。産業委員会は「記憶が定かではないが」としながらも誰も挙手しなかった。植村議員は「今後の審議で事実確認が重要だった」と述べた。

 このことから、柳田・志原保育所閉所の方針の基盤となるはずの答申は、全議員が目にしたことがない事実が判明した。これまで市担当課が保護者、住民、市議会へ行ってきた説明との整合性が今後、問われることになりそうだ。

 一連の質疑を終え、篠原市長は「市民に請願書を提出させてしまったことをおわびしたい。市はもっと丁寧に説明すべきだった。柳田保育所の保護者住民説明会にも2度出席し、意見を聞くたびに心苦しい気持ちになった。しかし、閉所の考えは変わらない。1年延期なども考えていない。ただし、できる限り寄り添いたい」と述べ、請願についての具体的な方針検討には触れなかった。

 

※請願には賛同する9人の議員が名を連ねた。(以下、敬称略)

【紹介議員】

中田 恭一

【賛同議員】

山内  豊

音嶋 正吾

山口 欽秀

武原由里子

植村 圭司

市山  繁

清水  修

松本 順子