2019.2.06業務移行は難航「市ケーブルテレビ指定管理者の業務移行」

市ケーブルテレビ指定管理者の業務移行、弁護士による協議思うように進まず

 

 4月1日から、新たな市ケーブルテレビ指定管理者の新体制運営が始まる。しかし新指定管理者への移行が残り約2ヶ月となる現在も、業務移行が順調にいかず、インターネットサービスやIP電話など、多くの利用者が継続して契約するサービスへの道筋が見えないままになっている。市と現指定管理者の関西ブロードバンド株式会社(三須久代表取締役)は、昨年12月から双方の弁護士による協議を3度にわたり行ったが、機材譲渡や契約者情報開示など、互いの主張の妥協点を見出だせずにいるようだ。

 

 移行まで残り約2カ月を切り、市ケーブルテレビの指定管理者移行を見守る市民から「4月からインターネットやケーブルテレビ放送、IP電話サービスが停止するのではないか」など、不安を訴える声が当紙に多く届けられている。業務移行の難航は昨年末から問題視され、当紙でも度々取り上げてきた。

 今年4月から市ケーブルテレビ指定管理者は、光ネットワーク株式会社(陶山和浩代表取締役・株式会社九電工など4社構成)が行うことになった。しかし現段階でも業務移行は進まず、新体制での具体的な準備段階に至っていない。

 光ネットワーク株式会社は「今のところ、市からは何の報告も受けておらず、こちらから公表できるものはない。まずは市と現指定管理者との話し合いが済んでからになる。4月から業務が可能かどうかも申し上げることができない」と語った。

 市政策企画課は「4月からの業務の完全移行はなんとも言えない。しかし今後も市民サービスには影響が起きないように努力する。弁護士による協議もなるべく早い時期に解決していく考え」とし、「裁判による解決は考えていない」とした。

 現指定管理者の関西ブロードバンド担当者は「市による合理的かつ市民の利便性を考えた判断に従う。しかし市からは4月以降の方針は何も聞いていない」と困惑気味に述べた。

 市ケーブルテレビ開局から約8年、本市には約3000人のインターネットアドレス契約者と、約4000人のIP電話契約者がいる。これらの機材等は、関西ブロードバンドが独自に用意したものが含まれ、それに伴う経費もかかっている。

 

何が協議の焦点か

 市は、開局当時に締結した施設運営に関する業務協定を基にしたい考えだ。協定書の業務内容に「インターネット及びIP電話サービスの提供に関する業務」として「指定管理者が調達した備品の所有権は、市に帰属する」とある。また指定管理者の交代時には「管理物件は市に引き渡すこと。その場合、管理物件に投じた必要費、有益費、その他の費用の償還を請求しないものとする」と記している。

 一方、関西ブロードバンド側は「協定書に基づく業務関係の移行や譲渡は承知している。しかし民法には、会社の存続や財産に関するものがある。契約者の個人情報等の取扱いは法で定められ、協定書があるからといって、簡単に提供することは個人情報保護法の観点から問題がある」と述べた。協定書記載と民法の規定が、業務移行の協議に立ちふさがっている。

 

選定評価委員会での疑問

 ここまでの事態が起きた経緯は、昨年7月の「市ケーブルテレビ施設、第3期指定管理者の募集」まで遡る。この時の募集には、現指定管理者で、壱岐ビジョンの代表を務める関西ブロードバンド株式会社と、今回新たな指定管理者となる光ネットワーク株式会社、対馬市で業務を行なっている株式会社コミュニティメディアの3社が応募した。

 3社から第3期指定管理者を選定するため、市職員や市ケーブルテレビ番組審議委員会の委員ら計8人で選定評価委員会を立ち上げ、評価点が最も高かった光ネットワーク株式会社に決定した。選定は、応募会社の業務遂行能力や、これまで類似施設の管理運営実績、地域密着の運営が可能か否かなど15項目の評価から選ばれた。

 しかし市民からは評価委員を任命する基準にも疑問が起きた。「評価をつけた委員は、ケーブルテレビやインターネット類に関する業務の技術面や知識を持ち合わせていたのか」「評価委員の選任は市職員と、市民代表として番組審議委員から3人が評価委員に選ばれているが、選任の基準は何だったのか。他の一般市民からも選任は考えなかったのか」「他審議委員にも同様に評価委員選任の打診は行われていたのか。市側が密かに特定の審議委員のみに声がけをした事実はないか」など。

 また8人の評価委員による評価点にも疑問が残されている。評価は1項目5点満点の全15項目の評価点合計(75点満点)で行われた。一人の評価委員は光ネットワーク株式会社に計71点、関西ブロードバンド株式会社に計21点と、極端な点数の差を示している。通常、極端な得点率を示すなど異例が発生した場合は、委員選任の適正さや再評価等の見直しがある。今回の場合は誰も疑問を挙げぬまま評価を終えた。

 関西ブロードバンド側はこの評価点に疑問があるとした。

 

採決の正当性を問う

 市ケーブルテレビ選定評価委員会の判断を受け、昨年10月の市議会で第3期指定管理者を可決した。市議会審議は産業建設常任委員会の付託によるもの。

 常任委員会では「現在のスタッフ(壱岐ビジョン)の雇用問題は大丈夫なのか」「インターネットアドレスやIP電話など、住民サービスの低下や影響はないのか」などの意見があった。市側は「新旧の指定管理者と協議が進んでいる。アドレス等は例えば1年間の猶予期間を設けるなどして、市民サービスに影響がないようにしている。また雇用は現スタッフの要望を最優先にする」と答えた。

 しかし本紙の調べでは、昨年10月の市議会開会時から現在に至るまで、新旧の指定管理者による協議は一切行われていない。それどころか現時点では、弁護士を介しての市と関西ブロードバンドによる、業務移行調整でさえ難航したままだ。※別枠に解説

 

何が原因だったのかを考える

 双方の意見が食い違う原因は、指定管理業務開始時に交わす協定書の内容解釈にあると考えられる。市民の個人情報扱いやテレビやインターネット、電話など市民の生活に欠かすことができないサービスを、市と企業が取り交す契約記載だ。この協定書に不備はなかったのか。国内大手企業や諸外国の場合、契約書類は重要扱いとして、時には数百ページにも及ぶ取り決めを交わす場合もある。

 またケーブルテレビやインターネット等のサービスにおける指定管理者委託変更は、全国的に見てほとんどない。開局や開所に携わった管理者が継続して行うことが通例だ。理由となるのが、個人情報取り扱いや、本来固定されるべきインターネットアドレスや電話等の頻繁な変更は、利用者にとって利便性に欠けるからだ。

 全国的に前例がないケーブルテレビ等の指定管理者変更を、本市は進めている。協議の行方を見守るとともに、市民の利便性に影響がないよう早期解決を求める。