2019.7.02タイワンリス繁殖増で対策が急務

繁殖数と繁殖地が拡大。対策を急がねば島内産業等に多大な影響

 

 本市でタイワンリスによる噛み切りで送電線の切断や、農作物が食い荒らされるなどの食害や森林の被害が急増している。市は、市民に対して捕獲したリスを1匹700円で買い取る方式を2002(平成14)年から始めた。これまで18年間で約12万匹が捕獲され成果をあげているが、リスは一向に減る気配がないようだ。市は事態を重く見て、専門家を交えての市民向け講習会を企画するなどの案を示し、タイワンリス撲滅と被害軽減を図ることにしている。

 

 近年、タイワンリスによる被害報告が頻発している。市は、2002年から5年おきの捕獲数集計を出しているが、ここ数年では捕獲数の増加が著しい。捕獲数は、02年から08年までが2万9750匹、09年から13年までが3万3264匹、14年から18年までが5万7426匹と増加を示す。

 市議会6月会議一般質問で久保田恒憲議員はリス繁殖の問題を上げた。久保田議員は「同様にリス繁殖に悩む自治体の中には、行政が行った対策で功を奏しているところもある。目撃があった時点で早めの対応をすべきだった」と発言し、行政として撲滅の意思を明確にした行動を示す必要性を強調した。

 また、先月には当紙宛に市民からタイワンリス繁殖の苦悩を訴える投書があった。投書には「市内各所にリスが繁殖し、果物や野菜に危害を加えている。なんとか捕獲する方法はないものか」と訴えている。市は捕獲器の貸し出しを行っているが、数に限りがあり追加貸し出しはできない状況と説明し、繁殖数と増加頻度に沿わない現状に、捕獲器の数を増やすなど対応が迫られている。

 市の担当者は「捕獲数は、平成30年度は約1万6300匹、平成29年度約1万2000匹、それ以前は約8000匹から1万匹なので、ここ2、3年前から急激に増えている」とし、近年の状況に危機感を示す。また、「島内の生息数は不明。生息地域は全島すべてに広がり、最近では町部にも出没しているようだ」と、全島の状況把握もままならない。

 

近年、拡大するリスによる全島被害

 今月14日には、市ケーブルテレビの送電線が噛み切られ、同日午前7時ごろから午後1時半ごろまでの約6時間にわたり、福岡波のテレビ放送が見られなくなる事態が発生している。切断した送電線は岳ノ辻からケーブルテレビセンターまでつながる主要な線で、市ケーブルテレビ契約者全戸の放送が受信できなくなった。

 市は2か月以内の電線から家につながるケーブルテレビ送電線の噛み切り被害2件を把握しており、今後も同様の被害が起きる可能性を示唆している。

 電話線にも使われる送電線が切られた場合、火事や自然災害時の緊急放送などの緊急避難にも支障をきたすことも考えられる。市民の安全安心の生活に及ぼす影響は計り知れない。

 農業被害は10年以上前から起きている。シイタケの原木がかじられ、収穫前のブロッコリーが食い荒らされるなどが起きている。算出はしていないが、農業者などの被害総額は多大なものと予想できる。

 

他自治体の対策方法に学ぶ

 東京都の大島や熊本県の宇土半島でもタイワンリスの被害に頭を悩ませている。

 宇土半島では、行政関係や学識者による調査が進み、平成22年度に「宇土半島におけるタイワンリス防除等連絡協議会」を立ち上げ、行政機関、学識者、猟友会等の連携によって普及啓発活動、捕獲促進活動に取り組んでいる。

 平成22年度からの6年間に約5800匹を捕獲し、平成28年度末の推定生息数は100匹を切り、宇土半島ではタイワンリス根絶も現実味が増している。

 タイワンリス撲滅には、住民と行政との迅速かつ本気を示す行動でしか解決策はない。

 

壱岐リス村閉園後に増殖の可能性

 本市でのタイワンリスの繁殖は、1992(平成4)年から2001(平成13)年ごろにかけて営業していた民間施設「壱岐リス村」で飼育していたタイワンリスが、閉園後に逃げ出したものと考えられる。当時を知る人は「閉園後、しばらくリスは園内に放置された。自力で飼育用の網を噛み切ったり、地面を掘って逃げ出したのではないか」と記憶を振り返るが、事実は不明だ。

 本市は比較的温暖な地で、島内にはシイやツバキなどの木の実が多く、タイワンリス繁殖のための自然環境に恵まれていることが災いする。リス村閉園後、目撃例はリス村周辺の大清水溜め池辺りに集中していた。しかし、勝本町の亀石や本宮などにも広がり始め、年月とともに島の南部まで拡大し、道路脇からも目撃されるまでに広がった。勝本町では以前、ヒノキが樹皮を剥がされるという森林被害も起きている。

 

閉園以降の捕獲体制

 2001年ごろの壱岐リス村についての資料では、園内のリス広場のドアは二重になっていて監視もいたようだ。開園時には、最初に入れた20匹のうち約5匹が客の荷物にしがみつき逃げてしまった事案が起きている。逃げた後の行方は不明で、それがそのまま繁殖した可能性もある。

 園では銃を用いるなどで駆除をするが、小動物で動きも早いことから成果は厳しかった。さらにネズミ取り用のカゴを仕掛け、駆除を継続していたようだ。

 資料では旧勝本町役場の職員は「園に対して対策の申し入れをしている」とある。ただ、当時は壱岐郡の観光産業の役割を担う役割を果たし、島内の子ども達にも第2土曜日は入場無料で受け入れるなど、活性化の協力もしていたようで、責任の追及は緩かったようだ。

 このことから、園と行政との協力体制や初動に問題があったのではないかと考えられる。