2024.5.28へき地保育所閉所で不安を抱える住民

篠原市長、市民に直結する課題の初仕事。自身が言う「聞く力」に期待

 

 郷ノ浦町のへき地保育所閉所の問題が市民間で巻き起こっている。3月末に渡良・沼津・初山の保育所を閉所し、柳田・志原のへき地保育所も、年度末をもって閉所手続を行うことで調整が進められている。4月より志原保育所は入所調整の結果、休所扱いとなり、すでに園児の姿はない。この状況に、ある保護者は「なぜ市は地域の声を聞かずに進めているのか」と戸惑いを見せる。

 

建設計画が頓挫、今も影響を残す「郷ノ浦町認定こども園」

 市としては、2014年に市子ども子育て会議より発せられた、幼稚園と保育所のあり方を求めた答申に沿うという。言うなれば、約2年前に起きた郷ノ浦町認定こども園建設計画と、それに伴うへき地保育所閉所の問題は、この時の答申が基準になっていると言っても過言ではない。

 認定こども園の建設計画が中止した今、へき地保育所閉所で市の考えと保護者を含めた住民との考えに食い違いが起き始めている。

 

約10年前の答申を読み返す

 2014年の同会議の答申内容を改めて確認した。2012年11月に市幼保連携子育て支援検討委員会として7回の会議を開催、2015年4月施行の子ども・子育て新支援法に対応するため、市子ども子育て会議として14回、計21回の会議を開催し審議を重ねてきた。各施設の入園(入所)数、施設面積や老朽化の度合、認定こども園化の可能性などを審議している。

 当時の答申には「公立認可保育所について、認定こども園化も視野に入れ、各町1か所に統廃合を検討すべき」とある。これに伴い「郷ノ浦町のへき地保育所は、大島を除いて、勝本・芦辺町の幼稚園と同様に郷ノ浦幼稚園と統合し、幼稚園型認定こども園の設置を検討すべき」とへき地保育所の統合を求める。ただし、「柳田、志原のへき地保育所は、郷ノ浦町へのアクセスに有利である立地条件にあることから、民間保育施設へ与える影響を加味しながら、3歳以上児を預かる認定こども園、または認可保育所、定員19名以下の3歳未満児だけを預かる小規模保育施設化も合せて検討すべき」とある。

 答申の最後には「公立施設の整備や認定こども園化が実現した場合は、公立施設の意義と役割を尊重しつつ民営化の検討も行い、適切な施設運営と幼児教育・保育の量の確保と質の向上に努めるべき」として方針をまとめている。

 これらを見返してわかるが、柳田と志原のへき地保育所に関してのみ、小規模保育施設化の検討もすべきとあり、その前提には「認定こども園化が実現した場合は」と明確に示している。

 答申以降、本市初の幼保連携型認定こども園の石田こども園が開園した。当時の記憶のみの検証にはなるが石田町の場合、先に認定こども園が完成し、その後緩やかに他園との調整が進められてきたように思う。

 今回、問題となる郷ノ浦町のへき地保育所閉所は、まず前提に「同町に認定こども園がない、計画が頓挫した」「住民への十分な説明や調整が進められていない。いわゆる緩やかな調整ではない」「そもそも10年前の答申に沿っているのか。さらに言うならば、10年もの歳月が過ぎた答申は果たして時代に合うのか」などの疑問がある。

 

閉所に異を唱える市民団体が発足。篠原市長が掲げる「聞く力」に期待

 前号で掲載したが、柳田、志原保育所の存続と十分な住民説明を求めるため市民団体「へき地保育所の存続を望む会」が立ち上がり、署名活動を始めた。同会は3月末から署名を開始し、すでに500筆近い署名数になるという。

 署名をもとに市議会に対し請願書を提出する予定だ。さらに、篠原一生市長にも意見交換を求めている。すでに10人近い市議とは面会し、要望事項を含めた意見を交わしているという。一方、篠原市長との面会要望は、市役所総務課に問い合わせたところ「面会は受けることができない。そのような意見は、担当課にしてもらいたい」として却下されている(20日時点)。同会は後日、改めて市長との面会を要望するという。

 篠原市長は、自身の公約に「まちづくりの主役は壱岐市民のあなたです」とし、「市民の夢を実現する市民対話会を実施する」とある。さらには「聞く力、実現する力、広げる力」を基本理念にしている。

 今回のへき地保育所閉所問題は、篠原市政にとって市民と向き合い解決へ導く最初の仕事になるのではなかろうか。公約の実現を含め、さらに自らが掲げる「聞く力」を実行に移す時ではないか。

 当たり前のことを言うが、まずは市民の考えを聞かねば問題の解決にはつながらない。仮に職員の一存で面会を却下したのであれば、役所内の体制の検証も必要となる。篠原市長への面会希望と要望は、篠原市長が判断すべきものであり、職員が判断できるものではない。

 意見交換の上で導かれていく結論には、市も市民団体も納得せねばならないのは言うまでもない。

 

市民団体、「理解のための意見交換会開催を」

 市民団体は19日、主なメンバーが集い3回目の会合を開いた。会では、認定こども園計画が白紙になったにも関わらず、へき地保育所が閉所になったことなどの現状を確認し、今後の方針を話し合った。

 主な問題点として▽市による閉所の説明は、当時の保護者のみを対象とし地域住民や市民全体への説明がなかった▽市民への周知が不十分だった▽閉所前より、入園希望者を募集しないなどの制限をした▽現状は、答申内容と異なっている-などを挙げた。

 今後の改善点として▽市民を対象とした説明会が必要▽保護者は地域の文化を身近に感じることのできる保育活動や生活を求め選んでいる。閉所は子育て世代の負担となる▽市民が必要としている市こども子育て計画が必要-などとした。

 大枠の意見としては「答申に沿うならば、再び認定こども園計画が立ち上がった後に、へき地保育所の閉所とするのが筋。現状のあり方は、市が掲げる子育てしやすい島、子育て世代を大事にする島に矛盾する」という。

 2015年施行の子ども・子育て支援制度や人口減、施設老朽化など時代の背景として、いずれ施設集約の時が来るのは免れない。しかし、住民が置いてきぼりとなる施策が進められていいはずはない。未来の壱岐を担う世代の声を、篠原市政と市議会はどう受け止めるのか。注目は続く。