2025.12.16離島医療の危機を直視せよ

 県病院企業団の令和6年度決算が、過去最悪となる約27億円の赤字に陥ったことが、大手新聞やネットニュースなどでわかった。7年度はさらに赤字が膨らみ、数年後には企業が積み上げてきた内部留保が枯渇する可能性さえあるという。企業団が運営する8病院3診療所は、すべて離島やへき地に位置する。壱岐市民が利用する壱岐病院も例外ではなく、今回の公表は「離島医療の持続性」というもっとも本質的な課題を突き付けている。

 赤字拡大の背景には、物価高騰、人件費の上昇、人口減少に伴う患者数減という三重苦がある。とりわけ離島は若年層の流出が続き、医療需要は高齢者に偏る。診療報酬は公定価格で自由に引き上げられず、人件費や医療機器の更新費が重くのしかかる。壱岐病院も医師確保に苦しみ、常に人材不足と設備更新の板挟みにあるのが現実だ。

 企業団の担当者は「病院がなくなれば住民は暮らせなくなる」と語ったという。これは決して誇張ではない。離島において医療機関最後の公共サービスであり、学校や交通以上に住民生活の存立を左右するインフラである。万一、経営破綻や縮小が現実化すれば、本市の将来にも直結する深刻な問題となる。

 では、何を改善すべきか。まず問われるのは、国の診療報酬制度の限界である。離島の医療が島外地と同じ「定額制」で維持できるはずがない。医師確保が困難な地域にこそ手厚い支援が必要であり、「離島医療加算」の拡充や特別枠の創設を国に強く求めるべきだ。企業団任せではなく、県や市も一体となって制度改革に動かねばならない。

 同時に、本市の姿勢も問われる。市はこれまで企業団の管轄として距離を置きがちだったが、医療の安定なくして人口減少対策も、子育て支援も意味をなさない。壱岐病院は市の基幹病院であり、市の未来像そのものと直結する存在だ。

 「離島で安心して暮らせる医療体制」を守ることは、行政の最重要の責務である。赤字拡大に危機感を共有し、抜本的な医療支援策と制度改革を急がなければならない。将来には高齢者も増え、今以上に医療に頼らざるを得ない状況は、想像ではなく現実だ。市民の暮らしを守り抜くためにも、他人事では済まされない局面に来ている。