2024.11.05市長の政治的判断に期待する
先月23日、柳田保育所閉所の問題をめぐって、篠原一生市長と市いきいろ子ども未来課担当部長と課長、園長ら、保護者や地域住民が5回目の意見交換を交わした。同月7日にあった4回目の意見交換で住民らは、今後の柳田地区と保育所のあり方として、新たに柳田保育所の認可制を提案した。保育所の一時存続とするための一つの方法だった。しかし、この提案に篠原市長は「閉所の方針に変わりはない」の一点張りだった。
そして今回、5回目の意見交換会で住民側は「我々が提案した認可制についての議論はしたか。その後の市の考えを聞きたい」と求めた。住民側は、柳田地区の利便性や保育所の需要、保護者と住民が市に対して提出した請願の内容をもとに「永久的な存続は求めていない。この状況での解決策は、市が目指す認定こども園建設計画が進むまでの間、同保育所を一時存続することではないのか。我々はそれを望んでいる」と訴えた。しかし、篠原市長の返答は「方針に変わりはない」とこれまでと変わらぬ一点張りだった。
これまでの同保育所閉所に関する説明会、意見交換会を取材してきた限り、保護者と住民側には個人的な都合のみを言う「わがままを通す」意思など見えない。市による閉所への進め方、行政上の手続きの不備、保護者や住民への説明不足など、混乱の原因を挙げればきりがない。行政による怠りが生んだ現在の混乱なのは明確だ。
保護者と住民側は一時存続を求め、市側の考えは方針変更しないとし、この場でも結論には至らなかった。市は一体なぜ、ここまで閉所に頑ななのか。篠原市長の説明では「集団的保育は市民、保護者の幸せにつながる。建物の老朽化対策、職員の配置に経費がかかる」など。さらに「9月会議で議員の議決を得た」を理由にする。
今回の意見交換は実に3時間半にも及んだ。あまりにも平行線の話し合いに、本来はこの場で発言すべきではないのだが、筆者はこれまで取材を通して見てきた疑念を篠原市長にぶつけた。以下にその意見を記す。
▼市議会では、閉所に関する条例は賛成8反対7、一方で柳田保育所の一時存続を求めた請願も賛成8反対7。この事実が示すものは、一方的な閉所を進めていいものではない。保護者や住民は、同保育所を半永久的な継続ではなく一時存続で妥協点を見出した。市は、条例可決のみを重視し、閉所に向かおうとしている。
そうならば、請願の扱いがあまりにも軽すぎる。相反する議決であり、市も明確に見える形で市民への寄り添いを示すべき。市の強引な方針継続は、住民軽視、議会軽視である。
▼篠原市長は、閉所問題は3年前から進めているという。しかし、3年前は認定こども園建設計画があった。約1年前、事業者撤退により計画は白紙になった。このことから、認定こども園ありきのへき地保育所閉所案は根底から崩れている。2014年のへき地保育所の在り方に関する答申にも反する。篠原市長が言う3年前からある話との認識は、大きく間違っている。正確には約1年前だ。言うなれば、市はわずか1年ほどでしか説明や話し合いをしていない。判断を下すには時期尚早だ。
▼閉所に関する条例の採決前、市担当課と副市長は「閉所に関する議案の説明のため」との理由で5人ほどの議員宅をまわった。どれも請願に賛同した議員だった。結果、請願に賛同した2人の議員が条例案の賛成側に変わった。また、市は柳田閉所案とともに、志原保育所の閉所も同列に加えた。このことで2人の議員は「志原保育所も加われば条例賛成はやむを得ない。仮に柳田保育所のみであれば、条例には反対した」という。
この事実は重要だ。市担当課が議会採決前に議員宅を回らなかったならば、柳田と志原保育所を分けた議案であれば、閉所に関する条例は否決だった可能性が高い。
▼市は議会の判断は民意だという。しかし、このような不審な動きと、すでに休園し施設内を撤去した志原保育所を議案に加えなければ、民意は違ったのではないか。真の民意を問うにはあまりにも疑念が残る。
以上が直接篠原市長にぶつけた意見の一部だ。記者と市長の議論は時間にして約40分あり、すべて掲載するには紙面が足りない。記者の最終的な意見として「条例可決、請願可決はどちらも民意として重要だ。採決を経て保護者、住民は一時存続との妥協点を見せた。あとは市側が採決をどのように捉え、妥協点を見出すかだ。一つの案だが、2年ほど閉所を延期し、納得いく話し合いの上で閉所に向かうべきではないか。このままでは決裂したままであり、将来への建設的な議論は生まない」。あとは民意をどのように重視するか、市長の政治的判断だけだ。