2019.6.18免許返納で高齢者の生活は大丈夫か
相次ぐ高齢ドライバーによる交通事故が連日のように報道されている。東京池袋や滋賀県大津市では母子や保育園児を巻き込む悲惨な死亡事故が起き、先週4日には福岡市早良区の交差点付近で車6台が絡み、9人が死傷する事故が起きている。いずれの高齢ドライバーも日常的に車の運転をしており、報道のインタビューで加害者の知り合いは「まさか、あの人が事故を起こすとは。普段は慎重な運転をしていたのに」と話している。
本市の道路事情に目を向けると、75歳以上の高齢ドライバーは当たり前のように目にする。地方の高齢化は進む一方で、全国平均と比べれば本市の高齢ドライバー率は多いのではないか。都会と比べ、電車や地下鉄など公共交通機関が発達していないことから、どうしても自家用車で移動になるのが実情だ。
国は、2009年に施行改正した道路交通法で、75歳以上の高齢者が免許更新する場合には、認知機能検査を受けるよう義務付けた。しかし、警察庁によれば、75歳以上のドライバーで昨年、過失が重い第1当事者となった事故は全国で約3万2000件あり、全体の7・9㌫を占めたという。認知機能検査導入前の2008年での同様のドライバー事故は4・1㌫であり、法改正後の方が7㌫増えたデータもある。これは、検査結果が事故防止につながっていないことを表す。認知機能だけでなく運転技能での判断が必要という。アクセルとブレーキの踏み間違いが事故原因になっているからだ。
専門家や有識者らは、早期の免許返納を対処法として訴えている。しかし、先に述べたように公共交通機関が網の目のように張り巡らされている都会ならいざ知らず、本市のような離島では公共交通機関が自家用車の代わりになるには難しい面が多々ある。独居老人や、昼間は働きに出て若手がいない家庭の通院や買い物は自ら行わなければならない。市は、市内バスの交通網整備などを検討しているが、自家用車での移動と大差ない生活環境を維持するには程遠い。また、バス路線では、各町から壱岐病院へのルートも利便性に欠ける部分がある。
本市などの離島は、都会以上に車社会である。言い換えるならば、自家用車を運転せねば通常の生活を送ることはままならない。積極的に免許返納ができず、高齢ドライバー増とならざるを得ないのが本市の現状だ。しかし、島外で相次ぐ高齢ドラーバー事故が、本市で起こらないとは限らない。他人を巻き込む悲惨な結果を生む可能性は高い。
また、別の側面では年金制度の問題がある。金融庁が人生100年時代に、公的年金だけでは暮らせず、2000万円の貯蓄が必要と報告書をまとめた。これまでの年金制度を維持していく限界と、これまで高齢者の生活を年金でまかなえていたものに、自己責任を押し付けた形だ。つまりは定年後も、あるいは75歳を超えても「2000万円の貯蓄がなければ働き続けよ」と言う意味だ。免許返納後の生活の足に困りながら、仕事も続けていかねばならない将来が訪れようとしている。
期待すべき自動運転技術の普及はまだ時間がかかる。現公共交通網の整備にも限界がある。一例だが、アメリカでは自家用車を持っていて「活用したい、それで収入を得たい」という一般ドライバーと、「車を自分で運転できない」人をつなぐ、携帯電話を使った配車アプリのシステムがある。簡単に言えば、地域住民が皆で助け合う仕組みだ。
都会ほどのインフラ整備が行き届かない地方や離島ほど、地域共助が強く求められるのではないか。進みゆく高齢化社会への対応は、助け合いの精神こそが解決に導くすべと考える。(大野英治)