2025.3.04もっと市民生活に目を向けた施策を

 昨年4月に篠原市政が誕生し早10か月が経った。振り返れば市民の声や記者の立場から見ても、島外企業や団体などとの連携に力を注ぐ市政のように思えるこれまでの期間だった。決して島内の施策をおろそかにしているという意味ではないが、占める割合や印象がそのように映るのだ。要するに島外と連携を結ぶことが篠原市政の特徴だとも言える。

 特に印象的だったのが先週、立て続けに3社とのエンゲージメントパートナー協定を結んだことだ。17、18の両日に第一生命福岡総合支社、生成AIを利用したサービスなどを手がけるSDT、主に猫の去勢を進めているどうぶつ基金の3社と結んだ。さらにさかのぼれば、先月17日には幼児向けや子育て情報誌を発行するベネッセ。同月30日にはアパレル企業のアーバンリサーチ。昨年12月には日本生命福岡支社。10月には教育関連でティーチフォージャパン、エデュコアの2社。市の公表によれば、現在36社と協定を結んでおり、さらに増えていく見込みのようだ。

 18日の協定締結の場で、篠原市長に「ハイペースで協定を進めているようだが、何らかの理由か施策の上での戦略があるのか」と問うた。篠原市長は「意識して増やしているわけではない。縁があった企業や団体がたまたま集中しただけ。協定はある時はあるがない時もある」というが、明らかに頻繁かつ積極的に結んでいる。縁とは、意識を向けることやアプローチ、行動せねばこれほどまでに結ばれるはずはない。

 市は、お互いが思い思われる結婚を例にして、エンゲージメントを協定の名称にしている。わかりやすい例で言えば、お見合い結婚などは細かな段取りがあってこそ縁が成立する。これだけの協定を結ぶには、かなりの労力を要しているのは想像に難くない。

 今後も40社、50社と協定は進んでいくであろう。当然、島外の企業や団体などが相手であればそれなりの労力と先方へ出向く経費や時間も要する。協定を結ぶことによって市民生活が大きく向上するのであれば、ありがたいことだ。しかし、現実はどうか。現時点で市民生活に直接的な恩恵があったような話は聞かない。市は、将来を見据えての連携と言うかもしれないが、それで市民への恩恵はいつあるのか。

 市民生活は想像以上にひっ迫している。特に民間企業や個人商店の経済的な困窮は誰の目にも明らかだ。観光客の動向も他自治体や県内離島と比較しても遅れをとっているのは否めない。

 島外との連携を結ぶことも否定はしないが、同じような熱量で島内活性化への思い切った施策はできないものか。いつ恩恵があるかわからない施策以上に、目の前にある必要な施策を打つことが最も市民に望まれていることだ。

 市議会2月会議で、来年度の骨格予算と主な施策が公表された。これまでの継続拡充事業に加え、いくつかの新規事業もあるにはあるが、どれも市独自の新鮮さに欠ける。本市は「新時代」を掲げていたはずだ。新時代=島外連携だったのか。市総合計画も、2050年に人口2万人、幸せの実感を掲げるが、タイトルばかりが立派で中身はどうなのか。篠原市政2年目からは明確かつ市民生活に効果的な施策を求める。