2025.11.10AIが拓く医療の未来、命をどう守るか

 本市で進められた富士通と社会医療法人玄州会のAI実証事業が注目を集めている。医療データを人工知能が分析し、診療報酬の精度向上や病床運用の最適化を支援するという試みだ。人材不足や財政難に悩む地方医療にとって、先進技術を活用した改革の一歩となる。

 玄州会は島内で高齢化と医師不足という二重の課題を抱え、経営改善が急務だった。富士通のシステム導入により、診療データの精度が上がり、返戻金の削減や病床稼働率の改善が進んだ。AIの支援を受けながら、医療従事者がより効率的に業務を行える体制が整いつつある。結果として収益の増加も見込まれ、離島医療の持続に向けた実践的な成果といえる。

 しかし、この動きを単なる「経営改善」として片づけるべきではない。AIは人間の判断を代替するための道具ではなく、あくまで人間を支える補助である。数字や処理手順が導き出す最適解に偏れば、医療の本質である「人と人との関わり」を失いかねない。AIの導入によって得られた時間を、患者と向き合うための時間に充てることができるか――そこに真の成果が問われる。

 光武孝倫理事長が語るように、「AIが担うのは効率、医師が担うのは心」だ。「患者の心に耳を傾け、恐怖や不安を受け止め、元気を与えるのは人にしかできない。患者の手を握り、聴診器を当て、家族のような雰囲気を大切にしたい」と語る。技術革新の先にあるべきは、冷たい機械化ではなく、より温かな医療である。AIが診療報酬を正確に計算し、病床稼働を最適化することで、医療現場が人間らしさを取り戻す。そうした循環を築けるかどうかが、地方医療の未来を左右する。

 医療の持続性を確保しながら、人の命と向き合う温かさを保つ。AI導入を通して示したのは、効率と人間性を両立させるための現実的な道筋である。

 技術の力に頼るだけでなく、その力をどう生かすか。問われているのは、人間の側の知恵と覚悟である。離島医療のさらなる一歩に期待したい。