2022.10.18民意が反映されない事業推進

郷ノ浦町柳田地区で建設計画が進む、認定こども園への市民の関心と不安は未だ収束に向かう兆しはない。

 同園の建設と運営を担う社会福祉法人北串会(雲仙市、中路秀彦理事長)は先月27日、建設請負業者との調整に時間を要したことや物価高騰、資材の入手困難などを理由に事業の一年延期を決めた。同予定地の土砂災害への不安の声に対する返答は今のところない。計画は変更なく進められようとしている。

 なぜ市民団体や一部の保護者、市民の声が受け入れられないのか。なぜ市は、何も対応を見せようとしないのか。歴史に「もしも」はないが、「もしも、あの時にあのような対応をしていれば」の思いを感じざるを得ない。

 同園の取材を進めていくうち、混乱を招いた発端は、約4年前から始まっているように思える。過去の適切な対応をしていれば現在の混乱を回避できたであろう出来事を以下に記す。ただし、市や県、北串会から詳細な説明は無いため、あくまでも当紙の見解になる。

▼今年7月まで市長との面会なし

 2014年に開かれた「市子ども子育て会議」での市立公立幼稚園と保育所の今後のあり方を示した答申から、同会は公立保育所の閉所統合の方針を知った。2018年ごろ、同会は市へ連絡し、協議を重ね2月に建築の補助金申請を行った。この間、市子ども家庭課担当者と5回ほど相談を重ねた。

 しかし、今年7月まで市長との面会はなかった。担当課が間に立ち、市長との面会の段取りをしなかったのはなぜか。また、同会は市担当者とは何度も会っているのに対し、なぜ積極的に市長と会う段取りをしなかったのか。

 市議会9月会議の一般質問で、市山繁議員も「補助金事業の場合、通常は市長にあいさつに行くもの」と指摘している。市と同会の段取りの悪さが目に付く。

 当初、市長との面会があれば、市有地の建設案があったかもしれない。

▼土砂災害危険地を適地とする認識のなさ

 当紙の取材に対し同会理事長は「土地の選定で何度も来島し、不動産屋にも伺い、探していく中の一つとして良い土地と判断したものが建設予定地になった」と述べている。最終的に2つの候補地まで絞り現予定地に決まった。

 何度も本市に足を運べばある程度の適地はわかりそうなものだが。地域住民と交流を持てば、さらに現候補地の状況は理解できたはず。何よりも土砂災害特別警戒区域の隣接地が「良い土地と判断した」と考える理由を問いたいものだ。

 また、市長とは会うことなく、建設予定地の親戚という理由で某市議と幾度となく会い、ともに現地を視察し、会食をした行為は何らかの疑惑を持たれても仕方がないのではないか。同会理事長は「たまたま建設候補地が市議の親戚だった」というが、その説明では納得できない。同会関係者と約10年前から知り合いだった事実との整合性がとれない。

▼マスコミ、市民の傍聴拒否のこども会議

 市議会9月会議の一般質問で、武原由里子議員は「同園に関係し、へき地保育所5園閉所についても話し合うべき、市子ども子育て会議を委員以外の入室を禁じ、非公開とした。本来、同会議は公開のはず。この行為は、市自治基本条例に反する」と指摘した。

 市は「原則公開だが、個人特定がある」と理由を述べた。入室が不可ならば早急に会議内容を記した議事録を公開すべきではないのか。そもそも同会議で個人特定の問題などあるのか、到底信じられない。同会議はマスコミも非公開だった。密室による決め事の弊害だ。

▼いまだ行われない住民説明会

 市子ども子育て会議を非公開とするならば、住民説明会で十分に納得と理解を得る説明をせねばならない。同会は11月6日に説明会を開くというが、予定される内容は入所説明が主のようだ。まずは入所説明ではなく、疑問が多い現建設予定地について、住民との意見交換が先ではないか。

 市民の安全安心を行動で示せない行政にも問題がある。認定こども園は誰のために作られるのか。民間事業者の利益のためか、子育て世代の住民のためか。子育て世代の住民のためならば、あらゆる方法で住民の声を聞き、行政として可能な限り事業者との間に立ち、住民第一の考えのもと、不安を払拭する努力をすべきではなかろうか。

 結局のところ、同事業に関わる関係者すべてが事業推進を優先し、住民生活と民意を二の次にしているから、このような混乱を招いているのではないか。