2024.7.16民意が割れぬよう慎重な議論を
市議会定例会6月会議で、市役所庁舎の一本化と建て替えに向けた提案と議論があった。約10年の時を経た庁舎問題の議論に、再び市民の注目が集まった。前回の新庁舎建設では民意が割れ、市は住民投票による判断に委ねた。結果は建設反対が大多数を占めた。以下、当時の主な経緯を時系列で再確認してみた。
2014年、市は市庁舎建設基本構想を掲げ、4町で市民に向けた内容説明会を開くなど、理解を求めた。当時の市庁舎建設検討委員会は「市民サービスなど利便性の向上、現庁舎の老朽化、行政運営の効率化、合併特例債の活用、原子力災害への対応など、市民、行政、防災対策拠点それぞれの必要性から、新庁舎は建設すべき」との結論を示していた。建設予定地は、郷ノ浦町の大谷公園周辺を候補とした。
一方、市民からはさまざまな意見が上がった。「年々人口が減少している現状で、約30億円(当時の試算)も使って新庁舎を建てる必要があるのか」「合併特例債を使うというが、これも借金。もっと他に使い道があるのでは」「庁舎を1か所に集約すると地域の活性化が失われる」「市民アンケートは、建設ありきで誘導尋問的な内容にならないようにしてほしい」「住民の意見が一番なら住民投票で決めるのはどうか」などさまざまな意見があった。
同年8月、市は新庁舎建設に関する市民アンケートを実施。回収率は15・4%と低かったが、結果は建設反対が賛成の2倍以上だった。主な反対意見は「将来の財政負担が厳しい」「現在の財政状況の中、建設するのは難しい」など財政の心配と、「これから人口減少する中で新庁舎は必要ない」「人口減少に伴い、庁舎の建設によって負担が増えるのでは」など、人口減少に関わるものだった。一方で賛成意見には、合併特例債の活用を主として、「現庁舎はいずれも老朽化で建て替えの時期が来る」「市民サービスの向上を実現してほしい」「組織の集約が必要」などだった。
同年10月、白川博一前市長は「建設すべき」と決断を下した。同年11月、市議会の庁舎建設検討委員会も「庁舎建設の必要性」で賛成多数(賛成11人、反対3人、委員長・副委員長除く)の結果だった。民意との乖離があった結論だった。
2015年3月、住民説明会などを経て賛否に割れた市民の意見を見て、市は住民投票を決断。同年5月、新庁舎建設の是非を問う住民投票を実施。住民投票の結果は、賛成4629人、反対9703人、ダブルスコアの大差で新庁舎建設反対が多数を占めた。投票資格者数は2万2787人に対し、投票者数は1万4509人、63・67%の高い投票率を集めた。以降、市は建設を断念し、4庁舎の耐震対策などに方針を変えた。
あれから10年、新市長となった篠原一生市長は「検討の時期」とする前向きな考えだ。再び民意が真っ二つに割れることがないよう、慎重な説明と議論を願いたい。
問題点は、物価高騰により前回より大きく変わることが予想される建設費用。合併特例債がなくなった現在、どこから予算を持ってくるのか、基金積み立てにどれだけの年月がかかるのか。人口減少により、どれだけの規模の建物が身の丈なのか。あるいは、不必要との判断になるか。市の将来と次世代の市民の視点に立った議論こそ必要だ。