2023.4.10検証せぬまま継続・拡充でいいのか

 いきっこ留学制度のあり方が問われる。先月1日、椎名隼都さんの行方不明から同月20日の遺体の発見、すべて衝撃は大きかった。その後、全国紙やニュースなどの報道で連日、衝撃的事件の報道が続いた。

 その中で、里親への非難や誹謗中傷、いきっこ留学制度の問題点などの声が全国から壱岐市へ向けて突きつけられた。人の命は何よりも重い。子どもの命が絶たれてしまった事態は決して許せるものではない。しかし、週刊誌の記事やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などの書き込みを見れば違和感は強い。特に椎名さんの里親へのイメージは私達が知る人物像とは、似ても似つかぬほどかけ離れている。

 SNSで言われているように、里親は金のためだったのか。生活は派手で豪邸に住んでいるのか。島の権力者なのか。日ごろから暴力的なのか。犯罪をもみ消す力があるのか。そもそも、島民は結束して里親を守るため隠蔽しているのか。どれも当てはまるものは一つもない。SNSとの乖離は、里親と面識ある本市住民ならば違和感があるはずだ。

 しかし、人の命は何よりも重く、何ごともなかったかのように終わらせるわけにはいかない。なぜ椎名さんは死亡したのか、あるいは死ななければならなかったのか、里親だけではなく私達市民もその責任を背負い、検証せねばならない。

 今回の出来事ではないが、いきっこ留学制度で子どもを預けた実親から、昨年より数通の手紙が本紙宛に届き、市教委についての問題を告発していた。当時から「制度自体に大きな欠陥があるのではないか」と考えたが、椎名さんの事案と先月30日に開催した総合教育会議で考えは確信に変わった。

 会議で決まった事項は、担当職員をこれまでの1人から2人に増員、第三者委員会を立ち上げ制度の自己評価を外部評価にすること。今回、話に上がった第三者委員会案は、死亡事案の検証のためではなく、同制度の充実などに向けた評価委員会なのだ。これで何が変わり、何がわかるというのか。

 島の人口増を視野に入れた身の丈以上の留学生受け入れ方針は、改善点の筆頭だ。市教委から依頼された里親は結果として限度を超えた子どもを受け入れなければならない状況となる。椎名さんが亡くなった直後の市議会3月会議で、市教委は死亡事件を取り上げず、これまでと今年度の留学生数の報告に終始したことからも、「留学生数重視」とした市と市教委の考え方がわかる。一家に7人、8人受け入れなど到底無理が生じるとわかりそうなものだ。担当職員を2人に増員など何の解決にもならない。数こそが重要で、本質的な問題点は二の次なのか。

 会議では、外部評価を目的とした第三者委員会設置を挙げたが、考え方が間違っている。今後の制度評価のためではなく、今回起きた死亡の検証に重きをおかねば、委員会設置など何の意味も持たない。

 今回の椎名さん死亡を教訓に、いきっこ留学制度のあり方を見直すべきではないのか。きっちりとした検証と報告ができるまで、一旦制度を停止、あるいは廃止する覚悟が必要だ。子どもが亡くなった原因や背景の検証もせず、制度継続など正気の沙汰ではない。これではまるで椎名さんの死と制度は無関係と言っているようではないか。だからこそ、一度立ち止まって検証が必要と言っているのだ。