2025.12.01制度の延長か、信頼の再構築か
有人国境離島法の改正と延長を求める決起大会が本市で開かれ、市民600人が声を一つにした。「航路運賃低廉化や輸送コスト支援は、離島生活の基盤そのもの」。その切実な叫びは疑う余地がない。制度が与えた恩恵は確かであり、法の延長は島にとって生命線だ。しかし、制度の必要性を訴えるほどに、同時に浮かび上がるのが「運用のゆがみ」だ。
なかでも、雇用拡充支援事業の問題は看過できない。離島の雇用創出を目的に導入された交付金だが、制度開始から8年が経ち、多くの島で「申請と認可までは丁寧だが、その後の行政チェックは甘い」との声が後を絶たない。本来なら雇用人数の維持や事業の継続が条件だが、実際には雇用が満たされない事業所は多い。さらに、休業や廃業に近い状況の事業実態が伴わないケースが、事業者に対して市の聞き取りのみで「続けていく意思がある」の一言で温存されているという。
雇用拡充事業の全実績がわかる資料がある。内容を確認すると、事業者からの休業や廃業に関する申し入れや申請はない。ただ、実際はどうか。長期休業化、あるいは廃業している事業者もいるのではないか。経営状況を確認することなく、聞き取りのみで判断していることにずさんさを感じる。
離島行政の現場には、人員不足、監査能力の限界、事業者との距離の近さといった構造的要因がある。だが、制度の目的が「島の持続性」である以上、実態のない雇用が補助金で延命される現状を放置してよいわけがない。本市の将来を語るなら、成果の裏で細りつつある信頼を直視すべきだ。
決起大会で議員や知事は制度の延長に強い意欲を示した。だが、その言葉を本物にするには、地域の側もまた制度の課題を正面から受け止める必要がある。雇用拡充事業の形骸化は、制度そのものへの信頼を損なう危険をはらむ。離島が本当に求めるのは、補助金の「継続」ではなく、補助金を使いこなす「自立の道筋」である。
制度の延長を叫ぶだけでは、島の未来は拓けない。制度を磨き、運用のゆがみを正し、助成が本来の目的に沿って機能しているかを確認する。それが行政の責務であり、市民の期待でもある。離島の存続を語るこの時期こそ、制度の「光」と「影」をともに見つめる必要がある。
