2025.9.08今後はもっと意味ある意見交換に

 県は、県政運営の方針などをまとめた現行の総合計画が令和7年度末に終期を迎えることから、令和8年度以降の5年間における県政運営の指針や考え方を示すための次期総合計画・総合戦略の策定を進めている。そのため、大石賢吾知事は先月26日、次期の計画に市民の意見を取り入れようと本市を訪れた。意見交換のテーマは、壱岐の魅力について、魅力をさらに引き出すためのアイデアや提案を求め、参加した市民からさまざまな意見があがった。

 県議会の場で大石知事は、総合計画について「時代の変化を捉えながら県の競争力や持続的な発展に力を置いたものにしたい」との考えを示した。2月の一般質問では「誘致企業による雇用の創出など、順調に推移し成果につながっている施策がある一方で、1次産業の収益性向上など進捗に遅れが生じているものもある。社会経済情勢の変化などにも的確に対応しながら、計画に掲げる最終目標の達成に向けて全力を注いでいきたい」と述べている。

 さらに「将来にわたり持続的な発展を遂げ、光り輝き活力に満ちた県にしたいという強い思いと覚悟を持って全力で取り組んでいきたい」と意気込みを見せた。この考えは、県内各産業の活性はもとより、県民の生活の充実と満足度の向上も含まれていると思われる。

 約1時間半に及んだ市民との意見交換会は、主に壱岐の魅力の再確認が主となり、魅力に伴うアイデアを出し合う対話だった。しかし、数々の意見に真新しいものはなく、壱岐の魅力は「観光コンテンツの多さ、景観の美しさと原風景が残る島、道路が整備されていることと車社会の充実さ、人の温かみと顔が見える人間関係」など、これまでの対話会や意見交換会で耳にしたことばかりだった。

 アイデアの提案も「夏季以外、閑散期の観光コンテンツの構築、今ある神社など歴史と文化を活用した誘致、移住者増のための空き家の有効活用、新規の体験型観光の掘り起こし、壱岐ならではの建築や港などがある写真映えする町」など、これも過去に耳にした提案だった。

 本当に多くの市民が県政に求めていることはそのようなことなのか。発言した市民も、知事との意見交換ということで考え抜いた意見だったことは否定しない。しかし、行政と連携した事業や団体を営む参加者と、この場に参加しなかった一般市民との考えの乖離は強く感じた。

 総合計画案に、少子高齢化が進む離島の課題解決に向けた考えを盛り込むための意見は出せないものか。意見では、自動車保有率や道路整備など離島の交通事情の話があった。一例だが、介護が必要な高齢者の通院にタクシーの利用があるが、車椅子が積めるタクシーは少なく、ドライバー確保も難しい。病院の診察を終えても、場合によっては1時間近く迎えのタクシーを待つ事態もある。生活の支障をあげればきりがない。

 せっかく知事との直接対話ができる機会ならば、これまでに言い尽くされた壱岐の魅力の再確認や提案ではなく、市民の末端にまで目を配った課題や問題点を知事に伝え、この先も住み続けられる島にするため、今、離島に何が必要なのかなどの踏み込んだ意見交換であれば良かったのではないかとも思う。

 人口約2万3千人の本市には、さまざまな生活風景がある。壱岐の魅力を再確認する観光活性なども理解はするが、それでは片手落ち過ぎないか。広く市民や県民の声が届いたうえで、持続ある県政運営の指針や考え方こそが総合計画であり、そのことを伝える場こそが、意味ある対話なのではないだろうか。わざわざ、知事が来島したのならば、政治的な視点での意見交換がほしかった。市民対話会と知事との意見交換会は、意味合いや重みがまったく違うのだから。