2025.9.23ジェットフォイル更新と離島航路の未来

 九州郵船が運航するジェットフォイル「ヴィーナス2」の更新の遅れについて、市議会9月会議で予算の組み替えが示された。当初予定していた令和10年度上半期の納入が令和11年度へとずれ込み、船価も78億6千万円から80億8千万円に増額された。背景には、更新事例の少なさや新型エンジン採用に伴う安全審査の長期化があるという。しかし、結果的に費用も時間も膨らみ、地域住民にとっては「生活の足」の確保に不安が残る事態となった。

 離島に暮らす人々にとって、ジェットフォイルは単なる交通手段ではない。通勤・通学、買い物、通院、観光振興に至るまで、島の存立そのものを支える基盤である。高速で安定した移動を可能にする航路の意義は計り知れず、更新が避けられないことは誰もが理解している。しかし、船価が80億円を超える規模となれば、地方自治体にのしかかる負担は決して小さくない。今回、国が4分の1、県が8分の1、本市と対馬市がそれぞれ16分の1、そして事業者が半分を負担する枠組みが維持されるとはいえ、増額分を含めて市が新たに予算を計上しなければならない現実は重い。

 問題は、このような「先延ばし」と「負担増」が今後も繰り返されるのではないかという懸念だ。造船コストは年々上昇しており、契約の遅延は即座に価格の増額につながる。今回、契約の遅れによって2億2千万円が積み増しとなったが、これは決して例外ではない。今後の物価高騰や部材不足などを考えれば、計画の遅れがさらなる財政負担を招く可能性はまったくないとは言えない。

 また、離島航路のあり方を問い直す必要もある。人口減少が進む中、単純に「船を新造する」だけで将来にわたり安定運航を保証できるのか。高速船だけでなく、フェリーとの役割分担やダイヤ編成の見直し、さらには観光需要と生活需要をどう両立させるのかといった総合的な視点が欠かせない。補助金で目先をつなぐだけでは、次の更新期を迎えたとき、同じ議論を繰り返すことになるだろう。

 フェリーちくしは、発電機不具合による緊急ドック配船の延長が続き、今後の運行にも不安がよぎる。九州郵船によれば「機器メーカーより復旧には11月末まで要するとの見解が示された。これを受け、緊急ドック配船期間を来月31日まで延長する」とある。さらに、「慢性的な乗組員の要員不足」によるダイヤ変更も深刻な問題だ。

 市民にとってもっとも重要なのは、航路が「確実に」「安全に」維持されることだ。自治体は受け身の対応と市民への報告だけではなく、住民に負担の意味と必要性をていねいに示し、生活航路としての安心を提示すべきだ。国には離島の公共交通を守るという政策的な強い意思を求めたい。

 ジェットフォイル更新の遅れと費用増額は残念だが、これを教訓として、離島の未来を見据えた航路のあり方を議論する契機とすべきである。私たちは「生活の足」を単なる数字合わせではなく、島の命綱としてどう守るかを真剣に問われている。