2024.11.26「絵に描いた餅」にならぬよう

 来年度から5年間の本市の方針を定める、市総合計画の素案審議があり、審議会で内容の確認後、篠原一生市長へ答申が渡された。総合計画は市の最上位計画として位置付けられ、市の方向性を決定付けるものだ。社会の流れに沿わずズレが生じていれば、将来の本市は停滞、衰退となり、市と市民の意思と将来像が合致していれば、自ずと住み良い発展的な市になるはずだ。

 総合計画の審議を進めるにあたり、市は広く市民の声を聞くためのパブリックコメントを求めた。市民の声は全37項目集まり、その内容を読めば市民が望む将来像や、どのような施策を進めてもらいたいか、現施策の是非などが見て取れる。目を通せば、非常に興味深いコメントがあった。

 意見には、総合計画と市まち・ひと・しごと創生人口ビションや市SDGs未来都市計画との整合性に関するもの、市民力や市の職員力を高めるための意見があった。また、歯止めが効かない人口減少に対して、高齢化や少子化などで起きる自然減と、転入者などを増やす社会増などについての考えなどが示されていた。

 総合計画の表記に関する意見では、「キャッチフレーズに『一緒に前へ、壱岐新時代へ。』ワクワク稼げる、イキイキ長生き、ノビノビ学べるとあるが、このフレーズは篠原市長が選挙時に掲げたものである。市長の方針に異論はないが、選挙時のフレーズをそのまま活用することは、総合計画の期間内に行われる次期市長選で、他候補者と不公平にならないか」とあった。これに対し、市の回答は「公職選挙法に抵触しない。市長のビジョンを示すことで、市民への信頼感を高め政策の実効性が増す。キャッチフレーズの変更はしないが、選挙時の中立性と公平性は確保する」と答えている。

 この回答にはいささか疑問だ。約3年半後に次期市長選がある。万が一、市長交代が起きた場合、新市長は新たなキャッチフレーズと公約を掲げることになる。その時に、前市長が掲げたキャッチフレーズは続けられるのか。市は「キャッチフレーズは市民への信頼感を高め政策の実効性が増す」というが、それは現在においてのこと。市の将来像を示す総合計画ならば、もう少し議論が欲しかった。新市長に変わる場合、政策や方針の転換は大いにあり得るからだ。

 イルカパークの存続に関して、市民2人のコメントも興味深い。「総合計画には、地域資源を生かした観光振興とあるが、同園のイルカは和歌山県太地町でイルカの追い込み漁で捕獲されたもの。本市の資源ではない。世界的にも残忍だと物議を醸している。次々と死ぬイルカで観光の利益を得ることは間違っている」と厳しい意見もあった。

 総合計画への市民の関心と周知に関して多くのコメントはなかったが、果たしてどれだけの市民が市の最上位計画だとの認識があるだろうか。どれだけすばらしい計画内容であろうとも、市民の意識に触れ、浸透していなければ「絵に描いた餅」にしかならない。

 総合計画はこれまで3期にわたり進められてきた。しかし、どのように市の施策に反映され実績を上げてきたのか。これまでの実績などの検証がもっとも重要だ。繰り返すが、何よりも市民への周知がなければ、行政だけの自己満足に終わりかねない。