2025.9.15不公平の是正は道半ばだ

 政府が原発財政支援の対象地域を、これまでの10㌔圏から30㌔圏へと拡大する方針を閣議決定した。これにより、玄海原発から30㌔圏内にある本市も新たに対象に含まれることとなった。市民の安全を守るための財政的裏付けがこれまで乏しかった現状を考えれば、支援拡大は一歩前進である。しかし、この決定をもって不公平が是正されたと胸を張ることはできない。

 本市は長らく、立地自治体と同等のリスクや責務を負いながらも、支援制度は不足感があった。玄海原発で万が一の事故が発生すれば、放射性物質は距離や県境を選ばず島を直撃する。市は避難計画を策定する法的義務を課され、住民に不安がのしかかる。にもかかわらず、財源確保の道は閉ざされ、不公平感は募る一方だった。今回の決定は、こうした理不尽を部分的に改めたに過ぎない。

 しかも、支援拡大によって交付される補助金の増額幅は、国の財政支援制度全体から見れば限定的である。海を隔てた壱岐においてもっとも必要とされるのは、災害時に命を守るための港湾整備や緊急輸送体制の構築である。これらに必要な事業費は莫大であり、わずかな補助率上乗せで対応できるはずがない。実態に照らせばきわめて不十分である。

 また、今回の制度拡大は「避難計画の実効性を高めるため」とされるが、果たして国は本市の地理的特性をどれほど理解しているのか。島外避難には船舶の確保、港湾の整備、さらには天候に左右されにくい空路の整備まで検討が必要だ。実際の避難を想定すれば課題は山積している。

 さらに問題なのは、原子力政策における「利益と負担の不均衡」である。原発で生み出された電力の恩恵は都市部や産業地帯が享受する一方で、本市のような周辺自治体は、事故リスクや避難困難という負担ばかりを押し付けられている。篠原一生市長が「リスクや責務ばかりを引き受け、立地自治体との格差に不公平感を抱いてきた」と述べたのは、まさに島民の切実な声を代弁したものである。

 国と電力事業者は、財政支援という「金銭的補償」で責任を果たした気になるべきではない。真に求められるのは、島民の命を守るための抜本的な避難体制の確立だ。紙の上の計画で「安全」を語る姿勢は、福島の惨劇から何を学んだのかと問わざるを得ない。

 今回の支援拡大を歓迎する一方で、私たちは声を大にして言わなければならない。本市の住民が背負うリスクと責務は依然として重く、不公平の是正は道半ばであると。国は責任をあいまいにせず、実効性ある防災インフラの整備と格差是正に真剣に取り組むべきだ。市としても、与えられた制度を受け身で消化するのではなく、地域の声を国に突きつけ、住民の命と暮らしを守るための施策を強く要求し続ける必要がある。

 島に生きる私たちは、原発政策の「周辺地域」という曖昧な位置づけに甘んじるつもりはない。命と暮らしを守る責任を徹底的に問い続けることこそ、支援拡大を真に実りあるものとする唯一の道である。