2018.5.22本当の意味での島のPRを
本当の意味での島のPRを
ユネスコ世界遺産委員会で、長崎と熊本の天草地方の12箇所ある潜伏キリシタン遺産が世界遺産に登録される可能性が高まっている。長崎県では端島(軍艦島)などが「明治日本の産業革命遺産」として、3年前に世界遺産登録され、今回の登録勧告が認められれば、県内では2例目となる見通しだ。
潜伏キリシタン遺産は、いわゆる隠れキリシタンとして知られたもので、壱岐島内にも関連した史跡はいくつも存在する。17~19世紀に県内と天草地方で密かに信仰を続けた歴史を示す遺産で、江戸幕府が禁教政策を強化する流れの中で残ったもの。
今回の世界遺産に登録勧告されたものは、南島原市の原城跡、長崎市の大浦天主堂や外海の大野集落、平戸市にある2ヶ所の聖地と集落、小値賀町の野崎島集落跡、五島市にある複数の集落などで、全12資産(地域)になる。地図を確認すれば、海洋に面したほぼ県内全域にまたがるエリアであることがわかる。
前述の軍艦島を例にとれば、世界遺産と認定登録されれば国内はおろか、世界各国からも注目を浴びる。これまで以上の観光客増と交流人口増、また様々なメディアに紹介され注目度も大きくなる。言うなれば、登録までにこぎつける努力は想像以上に大変であろうとも、その努力に見合うメリットは絶大と言うことになる。
今回の登録をめぐり、政府は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を平成27年に推薦したが、国際記念物遺跡会議(イコモス)から内容の指導を受け、取り下げた。しかし県は国内で初めてイコモスからの支援を受け内容を見直した。昨年改めて潜伏キリシタン遺産を推薦している。これは県関係者らの努力の賜物である。
この登録には壱岐と対馬は含まれていない。しかし対馬市は近年、韓国からの観光客などが年間30万人も訪れているとの報告もある。外国人観光客誘致の視点で考えれば大成功を収めていると言える。また五島市や佐世保市とその周辺は各メディアの露出度でわかるように、全国的に注目度が高まっている。平戸市はふるさと納税の成功例がある。他の登録周辺地域も、世界遺産登録が進めば観光客誘致の影響は絶大と予想できる。
一方、壱岐市の場合はどうか。今回の世界遺産登録の地域からは地理的に遠い。登録後の便乗効果はなかなか難しいものがあるように思える。このような経緯があるからか、現在の本市は「国内初の無人航空機実証試験地」をPR項目として各メディアに露出している。ただ冒頭にも述べたように、本市にも「オスチャ容器を持つ六面地蔵(郷ノ浦)、長栄寺の六面石鐘と五輪塔、華光寺の騎士切支丹墓、荒人大明神(芦辺町)、長泉寺のマリア観音像」など、他にも多くの隠れキリシタンの文化遺産が存在する。
壱岐にも島外に向けてのPR要素がふんだんに存在する。自然、海、食、史跡、文化など多種多様だ。潜伏キリシタン遺産としての史跡も多く存在する。可能か不可能かは別として、この未曾有のチャンスに乗れなかったのは残念でならない。
長い目で見た効果的なPRは、いにしえから持つ地域や島の良さをどれだけ表に出せるかである。特に世界遺産登録となれば、一発花火のようなPR戦略とは価値も継続力も違う。今回の世界遺産登録で該当する各地と周辺地域は大きな注目となろう。壱岐も本当の意味での地域性を生かしたPRを推進せねばならない。皆で知恵をしぼる「島民一丸」が必要だ。(大野英治)