2023.5.30離島留学制度の改善「民間でできることを」

離島留学生の死亡を受け、長崎市で離島留学制度について考える集会

 離島留学制度を活用し本市に在住していた男子高校生が3月に行方不明の後、死亡していたことを受け、16日、長崎市の長崎中央公民館で離島留学制度について考える集会が開かれた。会の主催は、市民団体「子どもの未来応援実行委員会」(南島原市、松島悠人会長)の壱岐支部(武原由里子議員・事務局)が取りまとめ、「壱岐離島留学生が残したもの~子どもの命や人権を守る大人の責務~」をテーマに、離島留学の経験者や里親、大倉聡県議、白川あゆみ県議、八木亮三長与町議など、会場とインターネットを通じたオンライン参加者70人あまりが出席。制度の問題点と今後の方針などの意見を交わした。武原議員は「彼は本当に心細かったはず。二度と第二、第三の彼を出してはいけない。子どもの命や人権を守るため、民間でできることを考えたい」と語った。

 

子どものための見守りは機能していたのか

 離島留学に関する制度のあり方について、島外でも賛否を問う議論が交わされている。同市民団体の壱岐支部事務局を務める武原議員は、「里親の研修制度や児童生徒の相談体制の脆弱(ぜいじゃく)さ、受け入れる里親の少なさ」などを指摘している。

 会を主催した同市民団体は、子ども達の命と人権を守ろうと南島原市で2018年に発足、現在、全国各地に活動の場が広がっている。今回の離島留学生死亡事案から、武原議員は活動の必要性を感じ、壱岐支部発足に至った。同会事務局の松島奈美さんは「今回の事案は長崎県民として大きな経験となった。この問題を風化させてはいけない。離島留学制度をこのまま継続していくには不安が大きい。そのために今回の集会を開くに至った」と開催の趣旨を説明した。

 本市では3月、離島留学制度を活用して市内で生活していた男子高校生が行方不明となり、その後遺体で発見された事案が起きた。男子高校生は市の「いきっこ留学制度」で中学2年の9月から本市で生活していた。中学卒業と同時に壱岐高に進学のため、引き続き県の「離島留学制度」を活用した。その間の本市在住は約2年半に及ぶ。

 事案の経緯を説明する武原議員は「同制度にはいくつもの問題点がある。いきっこ留学制度には運営委員会があるが、年2回の開催のみでほとんど機能していない。専門家による相談の窓口もない。死亡した男子高校生は中学生の時から、校内でいじめにあっていたと聞くが、市教育委員会や学校側の解決策はどうだったのか。高校に進学するからといって、未解決のまま手放してはいないか」などを指摘した。

 さらに「離島留学生はさまざまな問題や思いを抱えて本市に来る。地域との情報共有や交流の場はあったのか。学校や里親任せになってはいなかったのか」など、子どもの見守りが機能していないことを強調した。

 

留学制度の問題点を指摘、改善を求む声

 同制度は、国土交通省が推進する制度で、子どもの教育をつかさどる文部科学省や厚生労働省ではない点も問題だという。武原議員は「国交省は、離島活性化という名のもとに、離島に人口を増やそうということで始めた事業になっている。高校の離島留学制度は開始からすでに20年経過している。これまでに成果や問題点など協議されてきたのか。疑問でしかない」という。「今回の事案があったから見直そうという動きがあるが、なぜこれまでに見直せなかったのか」と同制度の不備を指摘した。

 事務局は男子高校生の行方不明時、捜索までの初動体制の遅れも問題とした。「行方不明となった3月1日、市民への情報はなく、同月3日になり防災無線で放送された。さらに、市議会3月会議で、同事案に関する話に触れることはなかった。結果的に市は同月30日、市総合教育会議を開き第三者委員会の設置を表明。4月13日に県教育委員会、同月14日の県知事記者会見で、県としての同事案が初めて公表された」という。

 武原議員は「4月20日、県による『これからの離島留学検討委員会』を開いたが、検証のための第三者委員会ではない。これからも同制度を続けていこうという会議だった。同月25日、市議会で教育長の退任が決定された。教育長はこの場で初めて『同制度には問題がある』と発言した。問題を認めた」などと述べた。

 里親の受け入れ態勢にも問題があるという。現在、本市の里親は70、80歳代の高齢者が担う家が多い。さらに、1軒あたり6~7人の留学生を受け入れている家もある。

 事務局の見解は「高齢者の里親の場合、後何年続けられるのか。しかし、市は留学生の受け入れ数を増やそうとしている。週末には昼食の用意をしていない里親もいると聞く。そのような留学生のため、市民の中には子ども食堂を始める動きもある」と述べた。

 最も大きな問題として、里親になるための審査や面接、研修がないことを挙げた。現制度の里親は「児童福祉法にある里親ではなく、ホームステイの親との認識。安全管理体制もない」という。現制度への「安全管理とサポート体制の不十分さ」など参加者からの指摘もあった。

 会を終え、当紙の取材に対し白川県議は「6月議会で離島留学制度の問題や課題を取り上げる予定としており、会派の中で取りまとめも進んでいる。里親の研修がない、1世帯の里親に複数人もの留学生受け入れがあるなど、制度のずさんさがある。本日の話の中で、市側が受け入れを要請した場合、里親は断れないとあった。制度の趣旨は良いが、基準があいまいで運用面の見直しは必要」と語った。

 

「子どもを守れる制度に」参加者の意見

-県でこういうことが起きたということで、県民の一人として非常に残念。県内で町議をしている観点から言うが、国交省の予算が里親へ渡されているが、いったん市に入り補助金として里親に渡る。当然市議会では予算の審議があるはず。審議の過程で制度に関し「これはおかしいのでは」などの声はなかったのか。

 里親の資格は必要ないとはいうが、壱岐市の要項では「離島留学生を受け入れられる家庭、受け入れた留学生を家庭的に健やかに養育できる環境を保持できること」がある。これらは素人目に見ても要項にすらなっていない。しかし、市議会は予算を通した。

(事務局)市議会でも提案はしたが、議会は過半数で動くというジレンマがある。

-今回のことを問題と思うのであれば、第三者委員会に頼るのではなく市議会で特別委員会を作って、留学生死亡の件、今後の制度のあり方を検討すべき。

(事務局)同感だ。

-離島留学制度で来ている留学生はいろんな事情を抱えている子たちが多いという。それでも市は、離島留学の制度自体は必要ということなのか。

(事務局)島の人口が減っていることから、必要というのが第一にあるという温度感はある。しかし、里親が足りない中で留学生受け入れを増やしている。個人的には里親留学は停止した方がいいと考えている。

-留学生達が壱岐の地域の中で知られていないという現状の説明があった。本来、離島留学は人間性の回復、島民との人間関係だと思う。

 NHKの朝ドラの「舞い上がれ」では長崎に移住し、そこで楽しく人間性を回復するというドラマで描かれている。島の人達は本当に温かくて面倒見てくれるんじゃないか、と日本中の人が思っているのに、一方でこんな事案があると実際はそうではないと思われる。

(事務局)留学生からの声が、学校と里親との関係で終始している。これが一番の問題。留学生と地域の人との交流の場があれば結果は変わっていたと思う。

-政治活動の中で県内各離島をめぐり、受け入れ団体や留学生と対話を重ね、離島留学制度自体は素晴らしいことだと感じた。しかし、今回のような問題があるとは思わなかった。制度のずさんさもわかった。スクールカウンセラーや専門的な知識がある人を配置し、国も県も総力を上げて取り組まねばならない。

(事務局)県議会とも情報共有を持ちながら共に進める。

本来なら重大事案であり、いじめの調査委員会が立ち上がってもいい事案だと思う。首長が作るといえばできること。本気で子どものことを守っていきたいという思いがあれば、県知事を先頭に調査委員会を作り、子ども達を守るような提言をしてもらいたい。