2021.4.06監査委員も財源不足を指摘せず

昨年9月の市議会で「市の財政は適正」と監査委員3人が判断

 市議会3月会議で、本市の財源が不足していることがわかり、住民サービスや高齢者福祉、市民団体への補助金減額などの予算削減が始まった。白川博一市長は令和3年度を「財政立て直し元年」として、市民に大きな痛みを伴う行財政改革を断行することを決めた。その流れの一環だ。先月12日の予算特別委員会で白川市長は、財政計画について勉強不足だったことを認め、自身の責任として釈明した。しかし、昨年9月に開かれた市議会9月会議で、市の財務や事業を監査すべき「監査委員」も、財政状況を見誤り、気が付かなかった可能性があることが分かった。

 

 市議会2月会議から同3月会議にかけて、本市の財政状況がひっ迫していることが発覚し、市民の間で市政に対して不安と不信感が募る事態が起きている。市議会3月会議で、白川市長は「財源不足のため、従来通りの住民サービスを維持していくことが困難になった」と述べた。

 町田正一議員は「なぜ、この時期になって今回のような補助金を削るなどの事態が起きたのか」と問い、白川市長は「中期財政計画の中身について、私の勉強不足であった」と答え、財源不足を招いた事態には責任があると自らも非を認めた。この発言は、今年に入り初めて市の財源が不足していることを認識したように受け止められる。

 

監査委員も財政の見誤り、見落としか

 同様の財政に関する事案は、昨年9月に開いた市議会9月会議の議案で、報告事項として挙がっていた。当時の議案では、「令和元年度市財政健全化判断比率及び資金不足比率の報告」として、市は監査委員に提出し、委員らが市の財政について内容を確認している。

 市が監査委員に対して提出した報告書は、令和元年度の健全化判断比率や資金不足比率の状況を示したもの。実質公債費比率では、早期健全化基準は25㌫以上が危機基準とされ、これに対して本市は6・4㌫、将来負担比率では、早期健全化基準は350㌫以上が危機基準とされ、これに対して本市は38・3㌫と記載される。

 昨年12月に市が公表した中期財政計画に同様の記載があり、先月12日の予算特別委員会で白川市長の釈明にもあった。この時、白川市長は「これらの指標を見て、財政はまだ大丈夫と錯覚した」と述べ、自らの勉強不足としていた。

 市が提出した報告書から市の財政健全化判断をした監査員らは、「算定基準となる書類は正確に作成され、健全化判断比率と資金不足比率はいずれも適正であると認め、健全化基準の範囲内である」とした。一方で「今後は、合併特例債などの償還により、実質公債費比率と将来負担比率の悪化が懸念される」として財政の不安要素を記載してはいるが、これ以上の監査は進められていなかった。

 しかし、結果として令和3年度当初予算で約18億円の基金の取り崩しによる予算編成を余儀なくされる形となった。基金取り崩しに頼らざるを得ないことから、住民サービスや補助金などを削減する事態も起きている。

 市中期財政計画では、現在は約10億円ある財政調整基金が令和6年にはわずか6千万円にまで減る見通しがある。現在、本市は基金の取り崩しによる財政運営に頼らざるを得ず、このままであれば5年後以降の財政はさらにひっ迫する事態となる。このことから、市は住民サービス低下や補助金などの減額により乗り切ろうとしている。

 

本市任命の監査委員は3人

 監査委員は自治体の内部に設置されるが、市の執行機関から独立した立場で職務を行い、市が行なっている事務執行の正否や適否をチェックする、公正不偏を保持して監査を実施する機関だ。

市の監査委員は定数3人で、委員の任命は、原則的に「人格が高潔で、地方公共団体の財務管理や事業の経営管理、その他の行政運営に関して優れた識見を有する者及び議員」から選ばれ、議会の同意を得た後に市長が選任する。昨年9月に同報告を監査した委員は、吉田泰夫氏、斉藤和秀氏、山内豊氏だった。

 任命を受けた監査委員は専門の知識のもと、決算書類などが法令や会計基準などに違反していないかどうかを一定の基準で監査し、結果を市議会など通じて市民に報告する義務がある。

 市や町などの自治体は、住民への行政サービスを提供するための公金や資産などの「市民全体の共有財産」を保有していることから、管理や運用は常に正確で効率的なものでなければならないとされる。違法、あるいは住民にとって好ましくない財政の使われ方は、住民にとって損害となるからだ。

 監査委員事務局は「委員任命及び監査方法は、他市町と同じ基準で行っている」と答えた。しかし、監査委員の職務は、監査のあり方によっては市民生活に大きく影響を及ぼすことから責任は重い。市政に深く踏み込んだ監査で、早期に財源不足であることを指摘できる役割のはずだ。

 

【記者の意見】

 市長の言葉を借りるとすれば、監査委員らも市が提出した報告書を見て「大丈夫と錯覚した」のか。ひとつ擁護するならば、監査委員の職務は「決算書類などが法令や会計基準などに違反していないかどうかを一定の基準で監査」とあり、この基準からみれば職務遂行となろう。

 しかし、専門知識を有する監査委員が、この程度の見識でいいのだろうか。当紙は毎年12月に市が公表する中期財政計画に目を通し、一昨年前から「財源不足が深刻」と報道し警鐘を鳴らしてきた。市長が財源不足を発表する以前、今年1月22日号の1面でも、今年度同計画での財政調整基金残高の異常さを見て「財政の確保や長期的視野を見据えた事業の見直しが必要。財政健全化への課題は多い」と書いた。文末には「これまでの市政運営の是非が問われる」と締めくくった。

 たいした専門知識もなく、市民同様に市が作成した資料すべてに目を通せる立場でもない記者が、事前に財源不足と財政健全化の必要に気が付いていた。財政の素人でさえも気が付くことを、市長をはじめ市職員幹部の行政のプロや、行政に係る見識が高いとされる監査委員らが、なぜ気が付かないのか。

 まともにすべての資料に目を通し、疑問点があれば市担当職員に問うなどしたのか。厳しいことを言うが、これでは真面目に市の財政を監査したとは言えない。

 行政や監査など、ずさんとも言える各自の職務のあり方が、市民の生活を苦境に陥れたといっても言い過ぎではない。大いに反省すべきだ。