2022.8.19「認定こども園」今、何が起きているのか

 市議会6月会議で、唐突に議案にあがった郷ノ浦町柳田地区を建設予定地とする「認定こども園」。市による建設計画の議案上程からわずか2週間でのスピード採決が行われ、市議会は賛成多数で可決。詳細な説明や審議を経ないまま、議会を終えた。同計画は雲仙市の社会福祉法人北串会が事業者となり、市とともに計画を進めている。しかし、建設予定地の旧辻川石油跡地の周辺は土砂災害特別警戒区域に指定され、近年頻発する大雨などの自然災害の危険をはらむ。同地は保育所運営に適地なのか、危険なのか、議会採決後の今も市民の間では議論が巻き起こっている。

 

保護者や住民への説明がないまま計画が進行

 

議会採決後、建設計画を知った保護者や市民は口々に疑問の声をあげ始めた。当紙にも「いったい何が起きているのか」と問い合わせが届く。事実を確かめるため関係各所に話を聞いた。記者の質問に対し県は「壱岐市が決めたこと」とし、市は「民間事業なので事業者に聞いてもらいたい」と詳細な説明を避けた。県と市の回答を受けて、同園事業者の北串会理事長にも話を聞いた。理事長はわかる範囲までの回答を示し、市担当課と5回ほど協議を重ねていたことなどがわかった。

 市議会の可決を経た今、建設計画は進められようとしている。当初から言われている「市民への説明がない。説明会開催を」は未だ実現には至っていない。市は、郷ノ浦町へき地保育所5園の保護者のみに対して閉園説明会を開いた。

 「なぜ、どうして、どういう経過で」など建設に至る市民の疑問は解決していない。そこで、取材を通してわかった事実を時系列で示すことにした。

 

2年後に郷ノ浦町へき地保育所5園はすべて閉園

 2014年、市子ども・子育て会議は「市公立幼稚園及び保育所の運営のあり方について」の答申を市に提出。市は、答申に基づき、へき地保育所の統合に向かって進めた。閉園となる保育所は、初山、志原、渡良、柳田、沼津の5園。2024年3月にすべて閉園となる。

 市は、「へき地保育所5園は、受け入れられる在園率、子どもが通っている率が40㌫を切っている。職員の人件費や建物の老朽化などの問題もある。コスト面で考えた場合の判断」と説明した。

 

突如、全協で公表した建設計画

 5月30日、市は市議会全員協議会(以下、全協)を開き、来年4月に郷ノ浦町田中触に民間運営の認定こども園を開設する計画があることを表明した。市議会定例会6月会議で施設建設費などを支援するための補正予算を計上した。議案内容では、総事業費2億5848万円を国(50㌫)と市(25㌫)、事業者(25㌫)がそれぞれ負担することになる。

 突然の補助金支出に一部議員は「なぜ事前の報告や説明がなかったのか」と詰め寄るが、市は「県が許認可を出せば、本市は義務負担として支出するしかない。県と国で決めたのであれば、市は許認可に対して良し悪しの口を挟む余地はない。本市は義務として補助金を出さねばならない」と説明している。同園は公設ではなく民間施設だったこともわかった。

 この突然の建設計画補正予算について、市と白川市長は「寝耳に水だった」として、突如、県から要請があった旨を述べている。この段階で市は、建設予定地が後に問題となる「土砂災害特別警戒区域に隣接」の事実を伏せていた。

 

土砂災害特別警戒区域隣接の建設が発覚

 市が公表している市土砂災害ハザードマップでは、郷ノ浦町田中触の国道沿いの一部は土砂災害警戒区域と特別警戒区域に指定されている。子ども園建設予定地は、建物が建つと思われる位置から奥が急斜面となる。同マップで確認したところ、特別警戒区域が周辺にあり危険エリアに該当する。

 市は5月30日の全協で、土砂災害特別警戒区域に隣接の事実を公表せず、当紙1面記事(6月10日発行号)で建設地が危険区域に隣接することを掲載。ここで初めて市民が知ることになった。

 2016年の芦辺中新校舎建設地変更の事例から、予定地再検討の必要があるとして、市民の意見が当紙に寄せられた。一方、市は「災害対策をすれば問題はない。法的な規制もない」とし、「災害対策は事業者が行うべきこと」と説明した。

 

市議会は賛成多数で可決

 5月30日の全協から約10日後の6月9日、市は市議会6月会議に議案を上程、2週間後の同月23日に賛成多数で可決となる異例のスピード採決だった。以降、市は「議会で採決を得ている」を理由とした取材対応へと変わった。

 議会を見た市民らは、徐々に建設計画の概要を知ることになる。市民は「あの土地は土砂災害の危険がある。他に良い場所があるはず」といった警戒感を示すようになった。

 さらに議会閉会後、同計画は県が市に持ちかけたものではなく、市と事業者によるものだということが独自取材でわかった。全協の説明が事実とは違うことが露呈した。

 全協の約4か月前の2月1日、市が県に対して提出した「認定こども園施設整備交付金協議書」には、「危険地区指定の有無」の欄に「有」と記し、「今回の施設整備を希望する」と記載されていた。結局、市は議会に対し5月30日の全協で初めて建設計画の経過を把握したように説明するが、実際には約4か月前に同計画を把握していた。さらに、土砂災害の危険も事前に認識していたことになる。

 議会はこのことを事後報告として受け、十分な審議を経ないまま採決に至った。約2億5千万円もの大事業が、わずか2週間ほどのスピード採決で決まったのだ。

 

問題は何か

 同計画の問題点は多い。以下に市民が訴える問題の一部を記す。

〈場所〉なぜ危険とわかっている場所にこども園を作るのか。市有地を含め、適地は他にあるのではないか。同地は土砂災害だけではなく、大雨の被害も発生しやすい土地だ。しかも、予定地前の道路は朝夕の交通量が多く、坂道のカーブで車の速度が乗りやすい。

〈対応〉へき地保育所5園の閉園に伴う、保護者や住民への説明がない。先月末、5園の保護者へ説明会を開催したが、市の説明は「もう5園の閉園は決まったこと。今さら変更はできない」だった。保護者らの意向は通らなかった。

〈透明性〉北串会の関係者と市議の関係が約10年前のSNSにある。その市議が予定地視察に同行していたとの地域住民の目撃談もある。さらに、郷ノ浦町の某レストランでの会食もあったと聞く。もっとも疑問なのは、その市議の親戚の土地が今回の予定地とされた。偶然なのか。(この疑問に対しては、北串会理事長が7月29日号で回答)

 今後の本市を考えれば、財政や老朽化などの理由からへき地保育所の閉園は検討の時期にある。しかし、まともな住民説明会がない今、行政の都合による一方的な閉園にしか思えない。

 また、統合された保育園の建設も、市の財政や人口減少など将来的な目線で見れば、いずれは必要となる。その場合、我が子を「安全安心」の施設に預けたいのは当然の親心だ。

 現在予定されている建設地は、本当に適地といえるのか。将来の市と住民にとって最適な判断だといえるのか。現保護者だけでなく、将来子どもを預けるであろう市民を含めた皆が一緒に考え、未来に向けたあるべき壱岐の姿を作っていかねばならない。