2018.9.25組織の長が「情弱」では話にならない

 今夏の猛暑は学校環境にも影響を及ぼし、全国各地では「普通教室にエアコンを設置すべきではないか」の議論が巻き起こった。長崎県は全国に比べて小中学校のエアコン設置率は低く、毎年の猛暑に対応するため、県内各自治体は普通教室のエアコン設置に向けた動きを見せている。

 そのような連動の中、ついに本市も普通教室エアコン設置の考えがあることを、市議会9月会議の冒頭で白川市長による行政報告で述べられた。また一般質問の中でも赤木貴尚議員や清水修議員から意見が上がり、設置に向けた具体的な話に進みつつある。

 しかしこの要望は昨年から起きており、本紙にも保護者や学校関係から必要性を訴える内容が届いていた。昨年までの教育長の弁では「設置の考えはない」から、今回の市議会9月会議では「設置に向ける」に考えを改めた。ただ設置をするならば、もう少し判断が迅速であればとも思う。この段階では猛暑も去り、熱中症などの危険も少なくなったからだ。

 今回の一般質問で、清水議員が「教育長はエアコン設置について『備えあれば憂なし』と考えを語った。これまでの考えを変えたのか」と問うた。これまでの考えというのは、昨年の9月会議の答弁にある。

 エアコン設置の要望に教育長は「いかに子供たちの体と心を鍛えて、その先に頭が鍛えられてくるというのが私の教育の信念。学校にエアコンを付けると、地球温暖化にますますハッパをかけることにもなる。エアコン等にも扇風機も、むしろ音がするよりはないほうがいいという形で、気合を入れて取り組んでくれているのが壱岐の子ども達だと思い、先生方もその中で気持ちを揃えてしてくれていると私は捉えている。子供の適応能力は大人になった私たちが心配するよりは、はるかに高い」(平成29年市議会9月会議議事録から抜粋)。

 そして今回の一般質問の答弁で教育長は「世の中は急激な変化をしている。予測ができない変化があるというのも地球上にある。文科省の教室環境基準も今年4月の見直しだった。気温が高まる異常性から体に与える影響を考慮し、物事を考えなければならない。自然の流れの中での考えにたどり着いている」と答えた。

 しかし、全国各自治体の学校では毎年の猛暑を考慮する形で、これまでにエアコン設置を進めている。全国平均も5割近くの設置率だ。文科省が今年4月に定めた学校の教室の「望ましい温度」の基準を「10℃以上、30℃以下」としていたのを、「17℃以上、28℃以下」へ変更したことが、エアコン設置への理由の一つだが、教育現場や生徒、保護者はもっと早い時期から声をあげていた。教育現場に最も近いのは文科省の役人ではなく、教育現場にいる先生や教育委員会ではないのか。

 係る予算の問題を超え、エアコン設置への英断は評価すべきだが、もう少し現場の声と実情をしっかりと見た上での、市独自の迅速な判断はできなかったものか。教育長の考えの変化は、現代の流行り言葉でいう「情弱」に他ならない(情弱の意味=情報資源に満足にアクセスできない人や、情報を充分に活用できない人を指す俗称。現在の高度情報化社会においては、得られる情報の量や質の差が社会的、経済的な格差を生みやすい。この格差は情報格差などと呼ばれる)。

 組織の長などの管理側は、今に起きている危機や実情に敏感でなければ、二歩も三歩も遅れをとる。また情報不足による実情の把握が満足にいかず、短期間で考えを改める事態も起こる。長の考えで振り回される現場の気持ちを思えば、長は長たる知識と情報力と行動力を持たねばならない。判断ミスで痛い思いをするのはいつも現場側なのだ。(大野英治)